ウィリアム・J・ロング著『森の秘密』より 訳:だいこくかずえ

Illustration by Mark Raithel,  from “Missouri’s River Otter: A Guide to Management and Damage Control” published by Missouri Department of Conservation.  About the quotation of the images

カワウソが雪の斜面を滑ったあとに残されたモールス信号のような印。

かわうそキーオネクは釣り名人(4)

ビーバーとカワウソの因縁

 

 厳しい冬の中、魚がいなくなったり、水場がそこらじゅう凍りついてしまったら、カワウソは恐れることなく森の中に入っていって、狩りの腕前を見せる。しかしカワウソは魚が好きで、水場も好き、何世代にもわたって、漁師の特質である素晴らしき静けさを武器に、釣り名人としてやってきた。

 

 カワウソは人に一瞬のうちに、親しみをもたせることができる。カワウソは同じ種のものと非常に違っていて、彼らをはるかにしのいでいる。生まれつきとても優しく、漁師のもつ荒々しさや、イタチの残虐さのかけらもない。あらゆる森の動物の中でも、容易に飼いならすことができ、従順で愛情深いペットにもなる。ただ殺すために、他の動物を殺すことはなく、できるかぎり他の動物たちと平和に暮らそうとする。そして食料を手に入れれば、釣りはやめる。また自分の住処をとてもきれいに保ち、ミンクのように嫌な臭いをプンプンさせたり、スカンクのようにあたりに臭いをまき散らすこともない。魚釣りすることだけが、キーオネクの気質と合っていないように見える。もし気質と関係ないのであれば、同じ種の仲間たちが漁師になれないのは、気の毒なことだ。

 

 わたしが観察してきたかぎりでは、森の仲間の中で、カワウソの敵となるのはビーバーだ。こちらもまた穏やかな動物で、敵対心をもつようには見えない。わたしはどこかで聞くか読むかしたことがあるのだが、キーオネクは子どものビーバーが好きで、ときに魚の食事に変化をつけるため、狩りをする、と。しかしこれを証明するものを、森の中で見つけたことはなかった。わたしは、そうではなく、仲が悪いのはビーバーのダムと池に問題があるのだ思う。

 

 ダムが出来ると、ビーバーはどちらかの端っこを掘って水路をつくることがある。余分な水を排出するためで、そうすれば増水してもダムが流されることがない。そして自分たちの住処を用心深く守り、ダムを横切ろうとしたり、中に入ってこようとする森の仲間や、穴を掘ろうとして、問題を持ち込むジャコウネズミを追い払ったりする。ところがキーオネクはその強さに守られて、平気で水たまりの中を横切り、ダムの近くの深場で魚を1匹、2匹と捕まえたりする。キーオネクは冬場、たいていの湖や川が凍ってしまうので、流れる水のあるところは大歓迎。さらには旅のあいだに、ビーバーのつかう水路まで利用する。しかしビーバーの方は水がはねる音を聞きつけたり、水場でキーオネクが魚を追う音に気づけば、怒り心頭に発する。ことがはっきりすれば、そこで死に物狂いの決闘がはじまる。

 

 以前に小さな水場の真ん中で、激しい争いが起きているのを見つけ、わたしは急いでそこまでカヌーを漕いでいった。2匹のビーバーと1匹の大きなカワウソが死闘を繰り広げていた。もがき、ダイブし、水からからだを投げ出し、互いの喉元にかみつきあっていた。

 

 わたしがカヌーをとめると、カワウソがビーバーの片方をつかんで、水の下に引きずりおろした。しばらく水面下で激しい騒乱がつづいた。騒ぎが終わったと思ったら、ビーバーの死体が水面に浮かんできた。さらに、カワウソはもう1匹のビーバーの元に行って襲いかかろうとした。2匹はすぐさまつかみあったが、もう1匹のビーバーは大きなからだをしていて、自分に不利な水中に引き込まれるのを拒んだ。これは大変と、わたしはカヌーを彼らのほぼ真上まで漕ぎつけ、間に割って入った。カワウソは湖を泳いで去っていき、ビーバーは岸辺へ向かった。初めて気づいたのだが、そこにはビーバーの家がいくつかあった。

 

 この場合は、カワウソの方に侵入の意図はなかった。おそらくカワウソは、自分の用で湖をただ渡ろうしていただけで、そこを襲われたのだろう。

 

 しかしこんな可能性もないとは言えない。ビーバーの側に昔の恨みがあって、湖にカワウソの姿を見つけて、けりをつけようとしたのかもしれない。ビーバーが湖の岸辺に、ダムの必要性なく家をつくる場合、通常、湖の底から土手の家までななめにトンネルをつくる。さてキーオネクは、想像される以上に、氷の下で釣りをする。魚を追うたびに、息をするための氷上の穴か巣がどこにあるか知っている必要がある。マスを追っていて、どれだけ方向を変えようが、急転回しようが、カワウソが方向感覚をなくすことはなく、息継ぎの場所がどこにあるか忘れることはない。魚がおとなしくなったら、カワウソは氷の下を最短距離で一番近い中継点まで泳いでいき、そこで息をし、獲物を食べる。

 

ときに息をきらして上がった場所が、ビーバーのトンネルだったりする。自分の家の通路でカワウソが魚を食べているとき、ビーバーの方は自宅の上の階で、憤まんやるかたなくすわっている。トンネルはこの2者が同時にいる広さがないので、そこで、あるいは氷の下で争うのは不可能だ。ビーバーは木の皮しか食べないので(ポプラの皮の内側の白いところが主な食料)、生のまま魚を食べるなどという野蛮さも、その骨やエラや生ぐさい臭いを家の前に残されるのも耐えがたいことである。ビーバーはきれい好きの典型で、臭いのあるものや汚物を嫌う。このことが、キーオネクを見つけたら、恨みを晴らし、激しく攻撃する原因かもしれない。

Illustration by Mark Raithel,  from “Missouri’s River Otter: A Guide to Management and Damage Control” published by Missouri Department of Conservation.  About the quotation of the images

​斜面を滑りおりるカワウソ。

斜面滑り

 

 キーオネクのやる奇妙なことで非常に面白いのは、斜面を滑りおりる習性だ。これは親しみの感情を生み、自分の少年時代を思い起こさせる。

 

 思い出すのは、1組のカワウソが、天気のいい午後に、泥の斜面を何度も滑りおりて楽しんでいるのを見たときのこと。スライディングは、川に落ちていく小さな崖の急斜面が選ばれていた。そこはかなりの急斜面で、頂上まで6メートルくらいの高さがあり、何度も滑り降りたことでほどよく濡れて滑りやすく、完璧なロケーションだった。まず1匹が土手の頂上に姿をあらわし、腹を斜面につけて前方に身を投げた。閃光のように斜面を滑りおりて川の深いところに突っ込むと、少し離れたところから出てきた。すべてが音もなく完璧な静けさの中で行なわれる。森が聞き耳をたてているから、告げ口されて楽しみを奪われないよう静寂を保っているみたいだった。これほど楽しく、純粋にして簡単な遊びはなく、何度でも、いつまでもカワウソたちのドキドキわくわくは続いた。片方が滑っているとき、もう片方が追いついて、かかとで相手を水に突き落としたときなど、こたえられない喜びに見えた。 

 

 その斜面は滑降に完璧な状態になっていて、カワウソたちは表面を荒らさないよう気をつけていた。彼らは登っていくときにはその斜面を使わず、ぐるりと回って反対側の斜面から上がっていくか、少し離れた併行する斜面の登りやすいところ、そして石が転がり落ちたり、木の枝が飛び出ていない滑らかな場所を選んでいた。

 

 冬には雪によって、斜面はもっといい状態になる。さらには、カワウソのからだについた水分が表面に残ることで、雪は固くなって凍りつき、数日すると、斜面はガラス面のようにスベスベになる。そうなると滑降はさらに完璧な状態となり、老いも若きもカワウソたちが競ってスライディングを楽しみ、楽しい1日を過ごす。

 

 雪深い森の中を行くとき、キーオネクはこの滑降を(特に下り坂で)先に進むために利用している。ちょっと勢いをつけて身を投げ、腹ばいになって何メートルか滑っていき、また立って走り込み、滑りを繰り返す。天気が怪しくなったとき人が道を急いで行くように、キーオネクはこの滑降をはさみながら道を進む。

 

 荒野で、最初に釣り名人カワウソがわたしの注意を引いたときのこと、銀色の泡のことを以前に話した。その後、わたしが数少ない機会をとらえて目撃したことから、銀色の泡は、キーオネクが水の中に滑降したあとだけに見られるのでは、と思うようになった。空気がカワウソのザラザラした毛皮に付き、水の中を通過することで、それが払われる。カワウソが腹をつけて長い滑降でおりていって、冬の水中に突っ込み、銀色の泡の連なりをからだの上で立て、チリンチリンと鳴らすのを見ていると、すべての生きものを同族にするこの自然界を感じ、猟師のわたしの心中に変化が起きる。

 

 それを見た後には、幸せいっぱいの用心深い生きものを悲劇に導く罠を仕掛けるのを控える。少なくとも、キーオネクが滑降する斜面のふもとに、三流の罠を見つけることはないだろう。そして同じ釣り仲間として、荒野の湖のそばで出会うときも、誰も来ない近隣の静かな川辺でも、キーオネクの幸運を願ってやまない気持ちになる。

 

About the quotation of the images:
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This page is the Japanese translation of "Keeonekh the Fisherman" written by Willam J. Long, from his book "Secrets of the Woods" (1901), that tells us a very interesting story about Keeonekh (otter in American Indian's words).

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