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ウィリアム・J・ロングについて

ウィリアム・J・ロング | William J. Long

アメリカの作家、野生動物観察家、プロテスタントの牧師(1867年~1952年)。アーネスト・シートンと同世代、レイチェル・カーソンの親世代にあたる。コネチカット州在住。毎年3月になると、アメリカ最北東部のメイン州を旅し、野生動物の観察をつづけた。その旅に息子と娘2人をつれていくこともあった。冬を超えての滞在もときにしている。

 

長年の動物観察の体験とそこで得た知識を、多数の著書に表している。『ビーバーとカワウソが出会ったら』『鳥たちの食卓』『黒衣のエンターテイナー』は、『Wood-folk Comedies』に収録されている。他に『Ways of Wood Folk』『School of the Woods』『How Animals Talk』など、野生動物についてのたくさんの本が出版されている。ロングはカワウソ、クマ、ムース、ビーバー、シカなどの哺乳動物だけでなく、フクロウも含めたたくさんの鳥類やスズメバチなどの昆虫も身近に観察している。

 

20世紀初頭、アメリカで自然文学をめぐる論争が起きたとき、シートンなどとともに、ロングはその渦中に置かれた。ロングの自然観察による著作は、動物を擬人化している、本を売るために面白おかしく書いているだけ、などという非難を一部から受けた。中でも当時のアメリカ大統領ルーズベルトとの論争は有名である。ルーズベルトがロングの著作を「擬人化」などの言葉で揶揄したことに対して、ロングは「手に銃を持ち、馬車や馬の背に乗って集団で野に出る人々に、自然を理解することはできない」と返している。そして狩りを趣味とする大統領を、「自分が殺した動物しか見たことがない」と言って非難した。ルーズベルトはロングの著作を、学校の図書館から追放したと言われている。

 

長年の観察からロングは、動物は経験から学ぶ能力があり、それを充分に生かして生活していると考えており、それまで信じられていた「動物は本能で生きている」という考え方に異を唱えた。しかしロングの思想は、動物と人間の境界をあいまいにするなどの理由で、なかなか受け入れられなかった。

 

今日、野生動物の研究において、動物が本能だけでなく、経験からの学びによって暮らしていることは、明らかになってきている。しかし一般的には、動物=本能という捉え方も残っていて、動物のもつ能力に必ずしも信頼が置かれているわけではない。野生動物を長年にわたって長時間観察することは、陸地であれ海中であれ簡単なことではなく、実験室の動物を観察するよりずっと非効率である。それだけにロングのような観察の記録が残されていることは、後世の人間にとって非常にありがたいことだと思う。

 

葉っぱの坑夫・だいこくかずえ

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絵:チャールズ・コープランド

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