ウィリアム・J・ロング著『森の秘密』より 訳:だいこくかずえ

かわうそキーオネクは釣り名人(2)

キーオネクの魚の食べ方

 

 まるまる午後の時間が、森の匂いと音につつまれ、何事もなくゆっくりと進み、目の前の流れにはさざ波一つたたない日がしばしばあった。ところがある午後も遅い時間、向こう岸の松の木々が夕日の中で黒ずんでいくころ、銀色に光る水の泡が流れを渡っていき、大きなカワウソが口に魚をくわえて、水面に現れた。報われないことの多い観察が、日の目を見た瞬間だった。カワウソは素早い身のこなしでわたしの方にやって来て、岸辺に前足をかけると身をくねらせ陸にあがった。まさにそこ、わたしの目の前にキーオネクはいた。数十センチもなかった。前肢でカワカマスの幼魚を地面におろすと、おびえたネコがするように背を弓なりにして、大きな尻尾の先から水をしたたらせながら、おいしいご馳走を堪能していた。

 

 何年かして、荒野の真っただ中、ダンガーヴォン川(カナダ東部)から何百キロも離れた場所で、まったく同じような光景を再び目にした。かんじきを履いて凍った川を見渡していたら、口にマスをくわえたカワウソが、水の穴から姿をあらわした。カワウソは薄い氷の端をチリンチリンと鳴らしながら前に進み、厚い雪の塊のところに手をかけ、以前と同じように身をくねらせて着地した。そして以前と同じように、背をまるめて魚を食べはじめた。

 

 このような面白い食べ方は、キーオネクの特徴と思われる。こんなものを何度も見られたのは、自分の運のよさに違いないと思う。なぜこんな格好で食べるのかは、わたしの知るところではない。しかし、こんな格好で(骨のある魚を)腹に収めるのは、楽しみを半減させないのか。背をまるめて食べるのは、イタチ科の動物が見せる、単なる習慣かもしれない。食事に夢中のキーオネクにとって、敵が近づいてきたときための脅しとも見える。フクロウが地上で餌を食べているとき、羽をいっぱいに逆立てて、からだを大きく見せているように。

 

 しかし子どものころに最初に出会ったカワウソは、鋭敏なきゅう覚の持ち主で、そばにいる敵に気づかないままではなかった。突如食べるのをやめ、わたしの方に顔を向けた。風に知らせを受けて、鼻腔をピクつかせるのが見えた。魚をその場に残し、音をたてずに、流れの中に身を滑りこませた。そしてどこに行ったかわからぬよう、さざ波ひとつ立てずに消え去った。

ダンガーヴォン川のあるニューブランズウィック州(赤い箇所):ロングは国境を超えた北東地域まで足を伸ばしていた。

Map by TUBS (CC BY-SA 2.5)

リノウス川はダンガーヴォン川の本流

North Renous River by Lesfreck (CC BY-SA 3.0)

カワウソの子どもたち

 

 子どものカワウソたちが現れたときは、最高に面白い学びの風景を見ることができた。キーオネクは水が大好きで、多くの時間をそこで過ごすが、子どもたちは(他の動物の子と同様に)水を怖がる。もし親に教わることがなければ、昔のこの種がそうしていたように、地上で狩りをするようになるだろう。魚釣りはカワウソのあとから獲得した習慣であるため、子どもたちにはこれが受け継がれていない。本能となるまでには、幾世代もの時間がかかるだろう。そうなるまでは、カワウソの子どもたちは、泳ぐことを学ぶ必要がある。

 

 ある日のこと、母さんカワウソが大きな木の根っこのところから、岸辺に姿をあらわした。根っこのところには、秘密の入り口があるのだ。これには驚いた。このときまでは、カワウソの夫婦はいつも川の中からここに近づき、巣の近くの岸辺に姿を見せることはなかったからだ。母さんカワウソは地面を掘っているようだったが、非常に用心深く、常にまわりを見まわし、耳をそばだて、臭いをかいでいた。わたしはこれまで、彼らを脅さないよう、巣の近くには行かなかった。それから何ヶ月もたって、カワウソの家族がここを離れたあとに、母さんカワウソが何をしていたのか理解するために巣を見にいった。そこで彼女が巣から岸辺に出ていくための、別の出口を掘っていたことがわかった。素晴らしい抜け目のなさで、彼女は出口の場所を設定していた。そこは大きな木の根っこの下のくぼみで、絶対に見つかりそうもなかった。母さんカワウソは巣の内側から掘っていき、出てきた土は川底に沈めたので、他の動物から、木のそばに巣があるのではと疑われることがない。

 

 ずっとあとになって、観察をたくさんして充分カワウソのことがわかってから、このことの意味のすべてを理解した。母さんカワウソは、水を怖がる子どもたちが、安全に出入りできる通路をつくっていたのだ。川の深いところにある巣の出口から、子どもたちを連れ出していたら、彼らは水面に出てくる前に溺れてしまっただろう。

 

 出口が準備できると、母さんカワウソは姿を消したが、すぐ内側から岸辺に何かいないか見ているのは間違いなかった。木の黒い根っこのところに、そろそろと彼女の頭と首があらわれた。鼻を流れの方に向けて臭いを嗅ぎ、危険がないことを確かめた。目と耳であたりを探り、襲われるようなものがないことを確かめる。そして外に出てくると、2匹の子カワウソがよちよちと続いた。外の世界の明るさにびっくりし、川の流れに恐れをなしていた。

 

 最初はただ驚くばかり、そして探索をはじめたが、まだ遊びはない。この2匹に用心深さが生まれた瞬間だ。卵の上を歩くような足どりで、小さな足を下におろし、茂みを通るたびに鼻をピクつかさせていた。母親の方は、子どもたちの用心深さに満足げで、自分は遠くの方を目と耳で監視していた。

 

 

泳ぎのけいこ

 

 探索はあっけなく終わった。下流からなにか不穏な空気が伝わってきたのだ。母さんカワウソがパッと起き上がり、チビたちは命じられたかのように巣の中に転がりこんだ。すぐにその後を母親が追い、岸辺は誰もいなくなった。わたしの未熟な耳がかすかな音を捉えるまでに、たっぷり10分はあった。その音は森の中からではなく、流れの向こうからやって来た。それからまたしばらくして、二人の釣竿をもった男が現れ、上流の釣り場の方へとゆっくり向かった。男たちはカワウソの巣のほぼ真上を通り、そして去っていった。うるさいやつらだと憤慨し、早くよそに行ってくれと願うカワウソと人間には、まったく気づいていなかった。しかし、暗くなるまでずっと待っていたのに、カワウソたちはもう外に出てくることはなかった。

 

 それから1週間して、またカワウソたちを見た。その1週間のうちによい教えがもたらされたのは明らかだった。子カワウソから、川を恐れる様子は消え去っていた。チビたちは以前と同じようによちよちと、前と同じ時間帯に出てくると、すぐに岸辺に向かった。母さんカワウソがそこで寝そべると、子どもたちは競争でもするように、その背によじ登った。すると母さんカワウソは流れの中に入っていき、子どもたちは滑り落ちないよう、その背に必死でつかまった。

 

 母さんカワウソが、子どもたちを水中に残したまま、閃光のように水に潜ったとき、2匹の子どもにちょっとした不安が漂った。子どもたちは充分に泳ぐことができたけれど、まだ水にそれほど慣れてはいないようだった。母さんカワウソが水面に現れると、子どもたちはクンクンと鼻をならした。しかし母さんカワウソは何度も何度も水にもぐったり、ゆっくりとその場を離れたりして、子どもたちを泳がせておいた。少しすると子どもたちは疲れてしまい、泳ぎ続けられなくなった。わたしが見つけるより早く、母さんカワウソはそれを見つけ、子どもたちのところまで泳いでいった。2匹は同時に母さんの方に向きなおり、その背中に休む場所をみつけた。母さんカワウソは背に2匹の子を乗せて岸辺まで行き、子どもたちは子犬がするように、揃って乾いた葉っぱの中にもぐり込んでいった。

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