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ウィリアム・J・ロング著『森の中の学校』より 訳:だいこくかずえ
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Photo by Jerry McFarland(CC BY-NC 2.0)

野生動物が死を迎えるとき

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ハクトウワシ

静けさを破るワシの一声。夏の荒野ではあまり聞くことのない、その叫びに驚いて、チェプラーガン*に何が起きたのか知ろうと、わたしは小屋を飛び出した。

*アメリカ・インディアンによるハクトウワシの呼び名。

 

チェプラーガンは住処のある高い山の頂上を、翼を広げ、小さな不規則な円を描いて飛んでいた。まるでワシの子が風を制御して飛ぶ練習をしているみたいだった。その異様な鳴き声は森を震かんさせた。

 

チェプラーガンに何か起きているのは確かだった。ワシの子が仲間を呼ぶ声でもなく、初めてのらせん飛行に挑戦しているのでもなかった。また、わたしが数週間追い続けやっと見つけた、遠くの岩山でヒナを育てているこの山の最高位につく夫婦の一方でもなかった。

 

この夫婦を追っているとき、ほかのワシを見かけることがあった。からだの大きな、連れ合いのいない、年老いた、一羽で行動するワシだった。ひと夏のあいだ、このワシはわたしの謎となっていた。

 

いま、高い山のてっぺんで鳴いているのはそのワシだった。この山ですでに支配権を失い、次の世代(自分の子どもたちであろう)に領地を引き渡したこのワシが、静かにあたりを見まわしているところをわたしは目にしていた。すでに姿の見えなくなった連れとともに、以前支配していたこの山に、ただ留まり、狩りをすることだけを主張していた。

 

多くの狩りをする鳥や動物は、自分の猟場をもっている。そしてそこを彼らが明け渡すまで、他のものは入ってこない。これがこの夏、わたしを捉えていた一番の謎だった。わたしは自分のグレーの上着と混ざり合う、風雨にさらされた木の根っこのそばに行って静かにすわり、チェプラーガンに双眼鏡をしっかりと当てた。彼は何をしようとしているのか。

 

すぐに不安定な円は中心にむかって狭まり、そこで年老いたワシは旋回し始めた。叫び声は静まり、空中でワシが休むときにするように、羽を大きくしっかりと広げた。数分間、ワシは動かなかった。広がる青い空に引かれた、ごく小さな黒い線のようだった。そしてその線は長く、太くなっていった。彼はわたしのいる方に向かって降下しているのだった。

 

じょじょに低く低く、ゆっくりと、感知できないくらいの角度の変化で、広げた羽を震わせることなく降下していた。通常のワシの飛び方ではない。低く低く、こちらへこちらへ、頭の重さに耐えかねたように、頭とからだと尻尾が完璧な1本の線となって降下してきた。その線は一つの地点へまっすぐに向かい、わたしは衣擦れのような、翼がこすれる音を間近に聞いた。

 

わたしのすぐ脇を通り過ぎたとき、ワシは頭を低く垂れ、獰猛な野生に満ちた目は半分閉じられていた。一度だけ、森の上に突き出した枯れ木を避けるため、少しだけ方向を変えた。羽を広げたまま湾を横切り、じょじょに地上へと滑降し、その向こうの暗い森のふところへと消えて見えなくなった。

 

チェプラーガンに何か起きていることは間違いなかった。こんなワシの飛行は見たことがなかった。彼が姿を消したあたり、大きな2本の木の間を目指して、わたしは急いでカヌーをこいでいった。森のすぐ縁のところで、母なる大地にやっと着地して、静かに休んでいる彼を見つけた。大きなヒマラヤスギの苔に覆われた柔らかな根っこに頭をのせ、涼し気な緑のシダに翼を広げ、死んでいた。

​​*1-2「モリムシクイ」へつづく

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