フォトルポルタージュ Animals Asiaの活動紹介 瀕死の子グマ救出劇を追って
テキスト:葉っぱの坑夫
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子グマを山に帰す
2016年9月21日朝
救助から約1ヶ月。専門家からの助言を考慮した結果、救助チーム全員の一致でレインボーの解放は決まった。9月21日水曜日、レインボーの健康状態のチェックを済ませ、大丈夫とみて、GPSを首に装着した。これにより今後3ヶ月間、レインボーの痕跡を追い、無事を確認することができる。
解放の準備をしているとき、思わぬ事態が起きた。麻酔で眠っているレインボーを獣医のシェリダンが診察していて、犬歯が欠けているのに気づいた。感染があり、今後の悪影響を考慮して抜歯を決断する。獣医のエディがやって来て、素早く抜歯を行なった。首につけるGSPは、アフリカで首にカラーを付ける仕事をしてきたクマ管理の専門家ライアンが助けてくれた。
すべての準備が整うとレインボーは箱に入れられ、救助チームは、最初の発見場所へとトラックで出発した。山道をトラックがうねうねと登っていく間に、もう一つ困ったことが起きた。GPSが故障したのだ。これでレインボーの追跡はできなくなった。アメリカにいる相談役のジョン・ビーチャムに電話を入れると、GPSのカラーは外した方がいいとわかった。子グマは成長期にあり、いずれ首の太さに合わなくなり、首を絞めつけてしまう可能性があった。別のカラーを注文して何週間も待つことはできなかった。GPSなしで山に帰すしかない、と救助チームは考えた。獣医のシェリダンが最後の麻酔を打ち、カラーを外した。
突発事故に見舞われながらもやっと目的地に着くと、成都(チェンドウ)と彭州市(パンジョー)の森林官庁の役人たちが、解放を支援しようと待っていた。彼らが言うには、このあたりは保護下にあり、2年前に密猟者を逮捕しているが、その後罠は一掃されているので、レインボーが捕らえられた罠は古いものではないかとのこと。
レインボーは麻酔で眠っている。目が覚めたとき自分の置かれている状況がわかるだろうか。救助の際、ここでレインボーの罠を切ったロッキーが、箱のドアにつけた縄を引いた。それを役人たち、ボリス、シェリダン、ウェンディ、マックス、サラディン、ジルが息を詰めて見守った。
レインボーは興奮して飛び出したりせず、そこにとどまった。それからゆっくりと箱から出て来た。何度か箱の中を振り返る様子を見せたのち、箱の右側に沿って歩きはじめ、そのまま見守っている救護班の視界から消えた。茂みがカサコソと音をたて、藪木が前後に揺れ、レインボーは人間の世界を離れて、山に戻っていった。
わずか1ヶ月のことだったが、救護班メンバーたちの心にレインボーは大きな印象を残していった。子ぐまの幸福を一番に考え、解放までの道のりがスムーズに安全にいくよう全力を尽くしたつもりだった。解放後、救助に関わった人々が、レインボーのことを思わない日は一日としてない。山で美味しいブラックベリーを思う存分食べ、障害のある脚にもめげず、健やかに生きていってほしいと全員が願っていた。母さんグマにも再会できたなら、これ以上のことはない。
レインボー山に帰る
*この原稿はAnimals Aisaの許可を得て、公式サイトのテキスト、写真、動画を編集して葉っぱの坑夫が作成したものです。
Animals Asiaについて
地球上のすべての動物への尊敬と共感を促進し、現在の悲惨な状況に変化をもたらす目的で、ジル・ロビンソンにより1998年に設立された。中国では10000頭、ベトナムでは1200頭のツキノワグマが、熊の胆のために農場で飼育されていると言われる。Animals Asiaは長期にわたる活動で、そのようなクマを救助し保護している。これまでに500頭のクマを保護し、中国とベトナムの両方にクマのサンクチュアリ(保護施設)を持つ。また食用に取り引きされるイヌとネコを守る活動も同時に行なっている。さらに動物園やサファリパークで不幸な状況にある動物への活動も展開している。また政府関係者に向けて、飼育動物の扱いや管理の向上について、啓発活動を行なう。今回の密猟者の罠にかかった子グマの救出では、その身を保護するのではなく、短期間のうちに健康状態を回復させ、野生に戻すミッションを遂行した。オフィシャルウェブサイト:Animals Asia
創設者ジル・ロビンソン(Jill Robinson)について
イギリス生まれ。子どもの頃から動物福祉に関心をもち、学校の休みには獣医のもとでボランティア活動をしていた。1985年香港に移り住み、 IFAW(国際動物福祉基金)でコンサルタントとして12年間仕事をする。1993年に中国のクマ農場を訪れたことが契機となり、1998年、Animals Asiaを設立する。現在Animals Asiaのトップとして300人のスタッフを抱え、中国とベトナムを行き来しながら獣医らと連携し、動物の健康チェックを行なう。自ら動物救助の現場にも駆けつける。動物福祉に関する名誉ある賞を多数受賞。2012年、チューリッヒ大学より獣医学の名誉博士号を、2014年、ノッティンガム大学寧波キャンパスより名誉法学博士号を与えられる。
Photographs courtesy of Animals Asia