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ウィリアム・J・ロング著『おかしなおかしな森の仲間たち』より 訳:だいこくかずえ

ビーバーとカワウソが出会ったら(2)

ビーバーの冬の暮らし

 

 毎年11月から4月までの数ヶ月間、ビーバーは冬の住まいに閉じこもっている。それは小さな住居で、6~8匹のビーバーが天井の低い居室で暮らす。彼らはきれい好きなことこの上ない。ジャコウのような、鼻をつく消毒液のような、ビーバーの体臭で部屋は満ちている。

 

 ビーバーの家族が家のことを考え始めるのは、秋の初めのこと。ハムーサビク(インディアンはビーバーをこう呼んでいる)はなぜか、アメリカの典型的な家族みたいに、いつもどこかへ移動したり、新しい家を建てたりしている。夏の間はずっと放浪生活をつづけ、荒野の川をのぼったり下ったり、あくなき探査の旅をする。しかし夜の寒さがしのびより、昼が熟した果実のように甘美になってくると、家族もちのビーバーは、冬に過ごす場所を探しはじめる。どこでもいいというわけではない。ビーバーは次の三つのことが保証されないと、冬の住まいにはしない。十分な食料の供給、食料を保存する貯蔵庫、気持ちよく安全に暮らすための乾いた部屋。このすべての条件を、人里離れた場所で満たす必要があるので、ビーバの住処を見つけようとすれば、探しあてるまでにそれなりの時間がかかるだろう。

 

 ビーバー家族にとってまず必要なものは、質のいい豊富な食料である。それを確保するために、ビーバーは近くの森を探索して、ポプラの森を、皮の柔らかな若いポプラの木を見つける。食料を見つけたら、すぐに木の皮をはいで集めると思うかもしれないが、ビーバーはそうはしない。ビーバーにとって、あらゆることがただうまくいけばいいというわけではない。順番が大切なのだ。選んだ木に手をかける前に、水中のどこに木材を置くか念入りに検証する。それが決まると、家を建てるのにちょうどいい場所を選ぶ。そこの水位をまわりの流れより上げようとするが(そのままでは浅すぎるので)、水位を上げると水があふれる場合があるので、通常ビーバーの家は、岸から少し離れたところにつくられる。そして家が準備できるまで(準備できたあとも)、ここで何日も働き、避難用の巣穴を三つ四つ素早く 掘る。巣穴は非常にうまくできていて、湖の底近くの安全な場所から土手を上っていくと、木の根っこの下につくった水面より高い位置の穴に着く。冬の住居を準備する間、ビーバーはここで寝泊まりする。冬の間は、住居を追われたとき、隠れ家としてつかうことになる。

 

 次に大事なことは、食料庫を凍結から守ること。唯一安全な場所は水の中だ。水が浅いと、底まですぐに凍ってしまう。しかしビーバーは、流れに抗して丸太や木の枝、石や様々なゴミでダムをつくり、水が凍らないようにする。ダムは貯水池を確保するためのものだ。遊び場をつくることと貯蔵のため、と二つ目的がある。貯水池は冬場の運動のために充分な広さがあり、底まで氷が張らないくらい深さがあって、食料がしっかり保存できることが求められる。つくり終えたダムを見れば、目的を果たしていることがわかる。これをつくるとき、いったいビーバーは何を考えているのか。ビーバーにしかわからないことだ。

 

 貯水池に水がゆっくり満たされていく間に、ハムーサビク(ビーバー)は食料の木を集める。まず歯をつかって木の幹のまわりを削って、たくさんの木を切り倒す。それから枝をちょうどいい長さに揃え、近くの水場まで転がしたり引いていったりする。そして貯蔵庫のところに沈め、水底に積んでおく。葉の青々した木は一般に沈みやすい。上に浮いてくる木があれば、水面で凍ってしまうので、沈めて片端を泥の中に埋め込む。木を運ぶのに水の流れがつかえるときは、いつもそれを利用する。必要とあれば、食料の木を引いて湖をわたることも苦にしない。もしポプラの木が水場から離れたところにあるときは、運河を掘って運ぶ。ハムーサビクは昼は巣穴に隠れて過ごし、夜に働くことが多い。どんより曇っていたり雨の午後は、外に出てくることもある。寒さが厳しくなってきて、貯水池や水路が凍る恐れが出てくれば、昼も夜も休まず働いて冬に備える。冬の準備がすべてすめば、眠る時間はいくらでもあるからだ。

 

 食料用の木が充分に集まり、子どもたちが毎晩それに追加するようになれば、大人たちは岸辺に冬用の家の準備をはじめる。最初にとりかかるのは、水面下の入り口やトンネルである。トンネルは住居の真ん中からはじまり、土手の中を通って、食料が取りやすいように、貯水池の底へとつづいている。

ビーバーの家の構造とデザイン

 

 このトンネルの上部、一番端のところに、ビーバーは家を建てる。1.2~2.4メートルくらいの高さのしっかりした造りで、直径は1.8~6メートルくらいある。建て物の高さは、春の水位がどれくらいかによって決まる。最低でも水位が最高位になったときより高い位置に部屋が一つ必要だ。部屋の広さは、何匹住むかによって変わる。家をもちはじめたばかりのカップルは小さな住居を、大家族は大きな家をというように。大家族には普通、大人のカップルと生まれて間もないビーバーの子が何匹か、それに1歳から2歳になる子が5、6匹かそれ以上いる。住居の素材は藪木や草、土から成り、内装は心地よく安全なつくりになっている。敵から身を守るために、ビーバーは厚い壁をつくる。居ごこちを確保するため二つ部屋を配置し、低い位置には玄関ホールが、上には居室がある。二つの部屋は坂になった、または階段状の通路でつながれる。(1)

 

 トンネルのすぐ上、入り口より30センチくらい上のところに、小さな部屋があり、玄関ホールと食事室になっている。トンネルを入ったビーバーたちは、ここで毛皮についた水をはらい(毛皮の内部はいつも乾いている)、食事もここで取る。このホールの床は固くかためられ、トンネルの入り口から必ず上り坂になっていて、水はけがいいようにつくられている。

 

 ホールの端から、一匹がやっと通れる幅の通路が、上階の居室の真ん中まで通っている。この中央の通路は、建て物のプランを導くものであることが多く、住居はこれを中心につくられる。しかしこの通路は固い素材でできているため、ホールと通路が、トンネルの入り口から切り離されてしまうこともある。通路を登りきったところ、ちょうど屋根の下のところに、乾いた草や木くずを積み上げてベンチ状にしたものが、回廊のようにぐるりと居室を取り囲んでいる。このベンチが居室の床となる。この床に家族がそれぞれ自分の寝場所をつくり、外に出たいときは、中央のスペースに滑り降りることで、ほかの者を邪魔することなく、通路を下ることができる。

 

 このベンチは屋根でおおわれており、直径1.8~6メートルの回廊になっている。アーチ状の天井はビーバーが頭をぶつけずに歩きまわれる高さがある。屋根に突き刺された枝の間には、小さな通気孔が設けられている。屋根は草や芝、イグサを水底からとってきた泥で固めてあり、厚さは60センチほどある。これはビーバー流のモルタルで、霜によってさらに固まる。(2)

 多くの建て物がそうであるように(鳥や動物の巣でも人間の家でも)、家が完成すれば、最後の仕上げをする。しかしハムーサビクはこれを、敵の目をあざむくためにやっているように見える。家が快適で安全なものに仕上がると、風雨にさらされた枝や木くずをふりかけ、強風や高潮でできたゴミの山のように仕立てる。冷たい霜の夜があれば、家の壁は固くなり、花崗岩のように頑丈になり、どんな敵も壁を破って侵入することはできない。ハムーサビク自身も、壁をかみ切って外に出ることは不可能だ。ただ一つの出口は、居室の中央にある出入り口で、そこから玄関ホールとトンネルの通路を下だり、1.5~1.8メートル下の貯水池の底に出る。

ビーバーの家の構造(参考画像)

 

無害な隠とん者ビーバー

 

 家づくりが進む間にも氷はどんどん厚くなり、ビーバーは氷がとけて、鳥たちが森で歌をうたいはじめるまで、家に閉じ込められる。その間は居室で多くの時間を過ごし、毎日2、3時間は氷の下の貯水池を泳いで、エクササイズを満喫する。そこから先に出ていくことは叶わず、貯水池での旅はごく限られたものになる。氷の下は空気がないから、家に戻るか、避難所の巣穴までもどって息をするしかない。お腹がすけば、トンネルを通って食料庫のところまで行き、枝を1本手にホールに戻り、そこで木の皮を芯まで食べつくす。それから裸になった枝をもって貯水池に行き、用済みの枝がたまっているところにそれを捨てる。次の冬もこの場所を使おうと思わないかぎり、無用のものだ。ここをまた使う場合は、ダムを修理したり新しい家を仕上げるときに、ふやけて輝きを失った食べかすの木を使うかもしれない。

 

 貯水池の中で、キバナスイセンの根っこを探しまわっていることから、ビーバーが水に浸かった木の皮ばかり食べるのに、飽きてしまっているのは明らかだ。このことから、誰かが氷に穴をあけ、新鮮な柳やアスペン、ペンシルバニアカエデの枝を差し込めば、1時間もしないうちに、持ち去られているのに気づくはずだ。もしその枝を握ったまま、じっと動かず、毛布でもかぶって光をさえぎれば、握っている手元から枝を持ち去ろうとするだろう。枝の端を泥に突き刺しておいた場合は、氷の中で上部が凍るが、ビーバーは2カ所(底のすぐ上と氷のすぐ下)を切りとって、自分の食事室に運んでいくに違いない。

 

 冬の暮らしに変化をもたらすのは、近くに湧き水の口があったり、入江で小さな流れがある場合だ。閉じ込められているビーバーたちは、氷の下を長い距離泳いで行かないと着けなくても、そのような水の流れを喜ぶ。流れのあるところに毎日のように来て遊んだり、天気がよければ、そのそばで日光浴をして1時間ほど過ごし、毛並みを整えたり、後ろ足の指に一本ずつついている割れた爪をつかって、からまった毛をほどいたりしている。

 

 こうした者たちは、隠匿者ビーバーの中でも幸せ者に属する。多くのビーバーは冬には、陽の当たる遊び場などもたない。とはいえ、開けた場所では見つかる危険があるので、用心深く楽しみを享受している。ちょっとした耳慣れない音や、かすかなかんじきの気配、人間の臭いが漂ってきたりすれば、幅広の尻尾を水に打ちつけて警戒音を発しながら、氷の下に隠れる。ビーバーたちの気配を再び耳にするのは、居室にそっともどっていくときの音だ。音をたてないように住居に近づき、鋭く屋根をたたくと、1匹ずつパタパタと足音をたててトンネルの中を走っていく。氷の上をおので叩いてみるといい。耳のいい人なら、ビーバーの家族が住居や岸辺の避難場所に入っていくときの、微かなゴロゴロ、ガラガラいう水の音が聞こえるかもしれない。あっちへ行き、こっちへ行きしているが、狂騒は長くはつづかない。ビーバーは荒野に住む動物の中で、もっとも無害な隠とん者なのだから。

絵:チャールズ・リビングストン・ブル、チャールズ・コープランド、USDA

(1)内装は、ビーバーの住む地域によって変わってくるが、わたしが観察した家に関して言えば、みな同じプランによって建てられているように見えた。以下の説明は、ニューブランズウィック州ミラミチ川でわたしが切り開いた8つのビーバーの住居の観察から。家の中は非常に清潔で、ビーバーがここを去ってから3、4ヶ月はたっているのに、かすかなジャコウの香りで満ちていた。これはわたしが切開した他の住居にも当てはまり、北部にある冬のビーバーの家の典型ではないかと思う。夏の家はもっとラフにつくられていて、内部には大きな部屋が一つあるのみ。<戻る

(2)「直径1.8~6メートルの回廊」の記述は三つ前の段落にあるが、原文では"from four to eight feet in diameter"(直径1.2~2.4メートルの)となっており、おそらく高さの数値を書いてしまったのではないかと思われる。<戻る

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注釈(1)
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