オオカミの生き方 | ウィリアム・J・ロング
Photo by Ralf Κλενγελ(CC BY-NC 2.0)
オオカミが羊を襲うとき
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オオカミはときに羊の群れを襲うことがあり、それはオオカミへの非難となる。オオカミの破壊性をとがめる前に、なぜそのような行動を起こすのか、話を聞いてほしい。
家畜の羊というのは、人間との長い生活の中で、元々の知性を失っている愚かな生きものだ。野生のヒツジやシカはオオカミに狙われると、四方八方へと一目散に逃げる。オオカミの方は通常、即座にもっとも近くにいる標的を追いかけて殺し、他の獲物には目もくれない。その同じオオカミが、羊の牧草地にやってくると、それまでの彼の経験に反することが起きて、精神のバランスを失う。
怯えた羊の群れは、四方八方に散らばるのではなく、一つにかたまる。羊たちは目算もなくただ、あっちに行きこっちに行きと逃げまどう。羊たちの鳴き叫ぶ声、慌てて動きまわる様子、恐怖によって発散される体臭が、野生動物を興奮させ、神経を逆なでする。よく訓練された犬でさえ、そのような瞬間に、普段の規律を忘れてしまうことがある。そして羊を追って殺してしまうこともある。羊の行動が彼を興奮させるからだ。
この犬のようにオオカミは、鼻先で何か勃発したとき、それを追わざるを得ないところがある。オオカミは列車を追いかけることが知られていて、オンタリオのグランド・トランク鉄道の支線で、オオカミの集団に追いかけられたという恐怖に満ちた話がある。新聞で報道されたその話は事実に基づいたものだった、というのだから驚いた。わたしは目撃者の一人から何が起きたのかを耳にした。
季節は早春で、その地域のオオカミを知る者が記事の行間を読めば、何が起きたかを正確に知ることができる。この「飢えた」「どう猛な」、乗客をむさぼり食おうと列車を追いかけるオオカミたちは、年長者抜きでその辺りをうろついていた若いオオカミの集団だった。年長のオオカミたちが、新たな家族をつくるために、若いオオカミを放置していたのだ。無知な若者たちは列車が通り過ぎるのを見て、それが何かも知らずに大急ぎで追いかけた。まさしく家犬が自動車や消防車を初めて見たとき追うように、あるいは多くの犬が、藪に鼻先を突っ込んで、怯えた猫や鳴きわめく鶏を追い立てたとき、我を忘れるように。そのようなとき、犬は知恵や腹の減り具合に関わらず、自分の足まかせとなって、昔のオオカミから受け継いだ衝動に従う。
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話を戻すと、オオカミが唐突に家畜の羊の群れと出会うと、身を寄せあって鳴き叫ぶ動物に刺激されて混乱する。まず1匹を投げ飛ばし、そこで腹を満たし、また自分の群れに戻っていく。しかしそうなる前に次から次へとオオカミの前に羊が現れると、オオカミは自分の腹具合や、何をしていたかを忘れてしまう。それで羊を追い、手をかけ、殺す。それに飽きるまで、あるいは羊の群れが森にでも散り散りに逃げていくまでやる。そして自分の基本に戻る。つまり腹の減ったときだけ殺し、満足するまで食べ、食料を探してないときは、獲物に手をかけない。
これが羊殺しの全容であり、オオカミが血に飢えているわけでも、どう猛な本能を持っているからでもない。普通でない興奮の場面のもと、そのような振る舞いをするだけのことだ。
しかし稀に、ハイイロオオカミは腹の減っていないときにも、獲物を殺すことがあると思う。母オオカミが子オオカミを連れて、狩りの練習で小さな獲物を追うときだ。森を歩いていて、茂みから目の前に獲物が飛び出してくれば、パッとそれに飛びつくだろう。同様に(自分の経験では)、人が風下を歩いていて、オオカミの目や鼻がそれが何か捉えられない場合、人を追うこともあるかもしれない。同じ理由から、飼い犬が走る人を追いかけるのは、衝動に従うのが習い性で、そのような衝動は、瞬間的には、普段のしつけより強く出るからだ。
北部の長い冬の間、オオカミは雪の上に1本の跡を残す。その後を追えば、何を彼がしてきたのかが正確にわかる。わたしはそのような足跡をたくさん追い、様々な地域でたくさんのオオカミが語る物語に出会ったが、たった一度だけ、早春に、手をつけられていない殺された獲物を見つけたことがあった。この獲物、それは哀れなシカだったが、気まぐれか気が立ったかで殺されたのかもしれない。あるいは腹の減ったオオカミが、鋭い嗅覚によって、獲物に何かよくないものを見つけ、食べるのをやめたのかもしれない。
もう一つの例外として、オオカミが腹が減っていないとき、獲物に手をつけないままにする非常に興味深い事例がある。春の初め、雌オオカミが腹に子を宿しているとき、自分の巣穴に最も近いところにあるシカの住処をうろつくことがあり、3、4頭を続けざまに殺して、雪の中に埋もれるままにしていく。このときまでに雌オオカミは群れを離れて、自分一人で狩りをしている。ただし一度だけ、彼女の夫と思われる雄オオカミが、狩りに加わっているのを見かけたことはあるが。
2、3週間後、雪が溶けて湖が顔を現わす。するとオオカミにとってシカを捕らえるのが難しくなる。雌オオカミは力を落としていて、食料がどうしても必要になる。子オオカミたちを食べものなしで置いておくわけにいかなくなり、雌オオカミは時を遡るようにして、狩っておいた獲物のところに毎日戻ってくる。
このような驚くべき習性が普通のことなのか、例外的なことなのか、あまり知られていない。オオカミが豊富にいるアルゴンキン州立公園のレンジャーが、「雪が溶けるとよく起きる」こととして報告しており、同じ頃に、わたしもその明らかな証拠を見つけたので、これは母になるときが近づいた、成熟した雌オオカミの特徴であると判断している。
すべてがオオカミの習性に反するわけではないが、極北の地域では、冬がやってくると、オオカミもキツネも、獲物を殺してそれを埋めて保存することはある。将来の準備としてだが、ある種のリスが秩序だって持続的にやっているようにではない。リスについても例外はある。シマリスはたっぷり貯蔵して冬の終わるまで備えるのに対して、ハイイロリスはあっちへこっちへと決まりなく少しずつ置く。冬が終わるずっと前に、ハイイロリスの食料はなくなるか、深い雪の下に閉じ込められる。そうなるとハイイロリスは巣穴で体を丸め、クマのように時期が来るまで眠りにつくしかない。