DISPOSABLE PEOPLE

​ディスポ人間

第43章

 昔のことを思い出すと、痛みがやってきて、ぼくが一人なのをみつけ、ぼくの心を開き、過去にまつわるメロディーを歌の言葉とともに、かたまりにして埋め込む。ぼくはそれを歌っている自分に気づき、それで昔の子守歌を思い出し、その歌の中で眠るため自分を揺らしたりする。

 皆はときどき手紙を書いたり電話してきたりする。

 2010年9月に、やっと読んだ手紙のように。ボブおじさんの死のほかにも、いろいろ言ってきた。

 靴屋が店を閉め、ぼくの知る人たちがその店を借りようとし、そこでヘア商品を売る小さな店を始めようとした、と聞いた。自分の髪に満足できない人たちが住む場所では、かつらやウィッグはよく売れるとのこと。

 皆が言うには、この数ヶ月のあいだに運河がしばしば拡張され、その理由は選挙が近づいているから。今回は一票一票が大事で、運河のすぐそばに住む人たちの投票も重要だという。しかし、皆が言うには、何年も前の夜に起きたみたいな大洪水は、以来一つも起きてないらしい。もう人々の命が海に流されたりしていないことを聞いて幸せに思ったが、<運河を見るために、あのクソ忌々しい場所に帰ることはないだろう。>

 皆が言うには、ぼくのいとこの一人が犬を飼っていて、ぼくの飼ってたラフィーにそっくりらしい。今はラフィーのことを以前とは違うように見ているから、それを聞いて幸せに思った。しかし、<その犬を見るために、あのクソ忌々しい場所に帰ることはないだろう。>

 皆が言うには、ここ数年、ベイビー・ダピーやクーリー・ダピーに悩まされることはないらしい。そしてあのカルバートは大人になって、(カルバートの子と思われる)子が4人いて、一緒に暮らしている女の子は、皆が言うには、クリスチャンでとても優しい人らしい。しかしはっきりとは指摘できないものの、カルバートには何か問題があって、今もそれはあると皆は知っている。ぼくはカルバートに会いたいし、可愛い子どもたちも見てみたいが、<その子たちを見るために、あのクソ忌々しい場所に帰ることはないだろう。>

 皆が言うには、ぼくのいとこのジミー(ジョセフィーヌおばさんの息子)が埋葬されて、葬式はうまくいったらしい。皆は何か出来事があると、ぼくにメールを送ってきた。

 

ハイ、ケニー

 

メール受け取りました。そこにあった情報はメモしてあります。悪いニュースです。ジョセフィーヌおばさんの息子のジミー(一番下の漆黒の子ども)が、誰かに呼ばれて、庭の前で、ガンマンに撃たれて死にました。ジョセフィーヌおばさんは、コートニーが盗みをして刑務所に入っているので、ひどく気落ちしていて、保釈金の援助をしてもらえないかと、土曜日にあたしらに言ってきました。子どもたちのことで、大変な目にあってるおばさんが気の毒です。おばさんがどうするのかあたしにもわかりません。シモーヌはジミーが不法なことにかかわったと言ってます。5人の子を残して死んだこと、信じられますか? まだ19歳だったのに。おばさんに何て言ったらいいのか、まだ電話もしてません。あたしが葬式の夢を見ると、悪いことがおきると知ってたけど、病気の年寄りのことだと思ってました。

 

元気でね。

ラブ、ケイ

 

 こんな手紙も、

 

ハイ、ケニー

 

タマラとあたしは昨日、        (あのクソ忌々しい場所の地名)に行きました。そして気落ちしてもどってきました。あたしたちの家の屋根はくさっていて、ひどい見映えだった。でもそれよりひどいのは、ジョセフィーヌおばさんには、ジミーを埋めるお金がないこと。子どもの誰ひとりはたらいてなくて、エロールが2000JMドルを、トーマスが23000JMドルを、ミセス・アダッサが5000JMドルをおばさんにあげて、墓をつくる砂利と墓を掘る男たちにはらいます。葬式は一度中止になりました。業者にはらう金がなかったからです。いちばん安い葬式で80000JMドルで、業者が5000JMドルまけてくれましたが、また一度中止になりました。おばさんが教会にはらう金がなかったので、キャンセルされてしまっていて、葬式ができませんでした。 

おばさんはすごく痩せてしまって、骨と皮です。

兄さんにお金がないのは知ってますが、ほんのわずかの金額でも、業者が安置のための追加料金をとるだろうから役立つでしょう。おばさんはさらなる金のことで大変になっています。おばさんがすごくかわいそう。すぐにでも死んでしまいそうです。

 

ケイ

*JMドル(ジャマイカドル)

 

こんな手紙も、

 

ハイ、ケニー

 

今日、葬式にいきました。人がたくさんきました。いつものように、知らない人がいっぱいいました。ジョセフィーヌおばさんは、兄さんからの助けにとても感謝しています。そして強く生きようとしています。ジミーは5人のすばらしい子どもがいて、みんなジミーに似ていました。葬式がすんであたしは喜んでいます。元気でいることを願ってます。あまり働きすぎないように。

 

ラブ、ケイ

 

 ぼくはジョセフィーヌおばさんが生きていて、いとこが5人の素晴らしい子に恵まれて、幸せだった。もちろんぼくは、<その子たちに会いに、あのクソ忌々しい場所に帰ることはないだろう。>と言ってあった。

 そしてさらなるニュースが入ってきた。

 皆が言うことには、ローパーさんが重い病気になって、信仰復興論者みたいに、地面に倒れ、わけのわからないことを口にし、泡をふいたらしい。教会に行ったことなど一度もない人だけれど。

 皆が言うことには、床屋をやっていた男が(それ以外の仕事や事業をしていたという記録は一切ないのに)、BMW7シリーズの新車にいま乗っていて、なんとも「臭い!」。皆が言うことには、その男は、たくさんの子どもを学校にやる助けをしていて、多くの両親が自分のまだ幼い娘が男と時間を過ごすことを気にしていないらしい。それはクリスチャンではないものの、男が優しくて親切だからだそうだ。

 皆が言うことには、馬並みのガーネットについて耳にしていることがあるらしい。以下は妹が書いてきたメール。

 

ウィリアム(ビリー)にガーネットのことを訊いてみました。最後にガーネットのことを耳にしたのは刑務所にいる話で、そこで誰かと口論になり、お腹を死にそうなくらい刺されたそう。それは2、3年前のことで、いまどうしてるか、刑務所にまだいるのかもわからない。つぎに(あのクソ忌々しい場所に)行ったら、父親に訊いてみようと思います。ウィリアムもガーネットが生きているかわからないらしい。ガーネットはもうあそこにいるように見えないし。悲しいニュースでごめんなさい。自分のめんどうをみてくれない親をもてば、悲しみに満ちた日ばかりだろうし、ガーネットは生まれたときから大変だったと思う。

休暇願いを出したから、できたら8月の第1週にもどる予定で、今月末に飛行機の予約をしようと思ってる。

 

ラブ、ケイ

 

 ぼくは自分に向かって言った:

 

ぼくはあのクソ忌々しい場所にぜったいに帰らない!

ぼくはあのクソ忌々しい場所にぜったいに帰らない!

ぼくはあのクソ忌々しい場所にぜったいに帰らない!

ぼくはあのクソ忌々しい場所にぜったいに帰らない!

ぼくはあのクソ忌々しい場所にぜったいに帰らない!