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DISPOSABLE PEOPLE

​ディスポ人間

第24章

 

7ヶ月のうちに、ぼくは「上流階級」の人間になる、という風に骨の髄から感じている。もう「中流」とか「中流の上」なんかではない! ぼくの言葉を覚えておくんだ。7ヶ月と3日、そして164000ドル、上流階級の寝ぐらをひとたび手にすれば、ぼくは気持ちよくなんの心配もなくいられ、誰もぼくをそこから追放したりできなくなる。

 

日記より(2009年6月)

 

 ぼくの人生における真実の愛。それはビヨンセ。

 よその国の女性がジャマイカ人みたいに腰を振って踊るところを見たことがない、と言ったら、ぼくは大嘘つきになるだろう(腰振りというのは、ウエストを軸にして尻をぐるぐる旋回させること)。これまでに二人いた。一人は日本人で、そいつはジャマイカ人と競ったんだ! いいかな、「うどん、米、寿司」対「ジャークポーク、羊肉のカレー、オックステール」の戦いだ。

 ジャマイカン・レゲエのベストダンサーを選ぶコンテストを見ていたと認めるのは、ちょっとばかり恥ずかしい気持ち。これはその年のダンスホールレゲエの女王を決めるショーだった。王女じゃなくて、女王だ、1998年の。最後に残ったのは「うどん喰い」と現女王「熱狂マーガレット」の二人。本来、その呼び名がなくとも、「羊肉カレー喰い」たちが血気盛んなイケイケ人間であるとすることには十分な確証があった。「うどん喰い」にはそれがない。この2種がかろうじて同じ国に所属し、あろうことか同じ舞台に立っていた。

 判定は腰の動かし方にかかっていた。ウエストと尻をいかに振るかが勝者を決める。

 熱狂マーガレットが舞台の中央に陣取った。これは例外的な行動、現女王は挑戦者が舞台で踊ったあと現れるのが普通だった。おそらく熱狂マーガレットは待ちきれなかったんだろう。

 熱狂マーガレットは舞台の中央に歩いていった。音楽が大きくなり、7人の人間がのちに耳が聞こえなくなるほどだった。

 熱狂マーガレットは靴も礼儀も投げ捨てた。

 熱狂マーガレットは腰を沈めた。

 そして腰を振りだした。

 彼女の溢れる喜びがあたりを震わすと、群衆の中の男どもは熱を帯びてポップコーンのようにはじけた。無敵のダンスだった。

 うどん喰いは勝てない! 絶対不可能なことだ。なんで熱狂マーガレットが先に舞台に立ったのか、ぼくらは理解した。うどん喰いはこれで意気消沈し、あとから舞台にあがって何をしようと、群衆からブーイングを受けて、自らの意気消沈に拍車をかけて崩れ落ちるにちがいない。だから群衆は熱狂マーガレットが本物の女王だというように、舞台に呼び戻したのだ。

 しかしうどん喰いの方には考えがあった。

 彼女は日本の女性がよくやる歩き方で、舞台中央にまっすぐ進み出た。

 音楽がかかり、それによりさらなる10人から12人の人間が耳をだめにした、と、のちに公表された医学報告書には記されている。

 うどん喰いは舞台中央で逆立ちをした。

 逆立ちのままの姿勢を保った。

 日本人女子は頭をつけたまま、小さな可愛い尻を振り始めた! 国じゅうが沸いた。審査員は不要になった。うどん喰いが栄冠を得た。

 さてここでビヨンセにもどると、ぼくは彼女がジャークポークを食べてるのか、羊肉カレー、ジュリーマンゴー、東インドマンゴー、寿司、うどん、何を食べてるのか知らない。ビヨンセは実際すごくほっそりしてる。でもぼくは彼女のディップ(腰を沈める体勢)を見た。彼女のワイン(腰振り)を見た。ぼくがあの尻を見たことは確かだ! ぼくの人生における、マンゴー同様の、純粋な喜びの一つだったと言える。そしてビヨンセと一緒になれたらと願う日々があって、なぜそれが叶わないのか、どうしても理解できないいのだった。

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