DISPOSABLE PEOPLE

​ディスポ人間

第15章

 

 親愛なるセミコロン様、良い編集者がいたら、ぼくの小説にはもっと会話が必要だと言うだろうね。読んだときの手触りやリアル感を増すために。だけどそんな会話を入れようとしても、どこで見つけたらいいんだ。あのクソ忌々しい場所での暮らしを思い返せば、心に浮かぶのはあそこの人たちと、その人たちに何が起きたかということ。それといくつかの出来事もね。会話は思い出せない。でも小説につくりごとは入れたくない、とくに会話みたいなものについては。記憶の中の細かい部分は、日がたつにつれどんどん変わってしまうものだ。でも過去のことを思い出して、使えそうなものを探してみよう。

 ぼくが9歳か10歳だったとき、トミーの甲殻類の殻みたいな家(どうしてかトミーの家族は一つの殻に住むカニみたいだと思ってた)まで走っていって、今から外で遊べるかどうか訊こうとした。トミーがいつもおとなしく座っている裏口の方に向かった。半分開いたドアの隙間に頭を突っ込んで、トミーがそこにいるかどうか覗いてみた。そうしたら、あった、見つけた! 会話を見つけたぞ、セミコロン。

 

トミーのママ:あんたがあのド臭いまんこ持ちの『マラサと真夜中』の娘っ子みたいなクロンボとやってるのを知らないと思ってるんかい?(1)

トミーのパパ:どこのクソッタレがそんなこと言ったんだ?

トミーのママ:ぼら、ほーらね。知ってんだよあたしは。どの娘かともこいつはききゃあしない。

トミーのパパ:おまえほかにすることねえのか。クソ料理でもならえっての。

トミーのママ:一週間ごとに金やってる女はその子なのかい? 自分の子に食わせもしないでさ。その娘っ子だろうが。

トミーのパパ:おれがどうやって金ヲ手にしてンか知ってんだろ。どうやって糞金を手にしなきゃなんねーかわかってんだろが。女は料理してりゃいいんだ、おれがそれを食べる。その糞まんこな口をとじろってんだ。

トミーのママ:あー、そうくるんか、そうくるんか。あたしの子どもらがガッコ行けないってのに、あのド臭いまんこ女はいい服きやがって。そうくるんか。

トミーのパパ:ガッコか、ガッコだってか。このアマ、おれ知るコトおまえ知るなら、ガッコのことなどおれにイッサイ言わんだろな。なんでおまえ料理ならいに行かず、おれを糞邪魔ばかりするのやめない?

トミーのママ:なんだって、なんだって?! あたしになにもきくなってか? あたしはただ横になってあんたに踏まれてりゃいいってか。あの娘っ子はあたしよりファックがうまいのかい。あたしのまんこよりあの子のまんこのがキツいってか、であの子にあたしの金ぜんぶやってしまうのか。えー、えー。

トミーのパパ:じぶんヲ見てみろって、このアマが。糞なじぶんヲ見てみろって。おまえの糞うるさい口をとじないってなら、、、

トミーのママ:なんだって。なにしよってんだ。あたしがあんたをこわがってるってか? あんたみたいなやくたたずのうす汚い野郎にか? あたしを見てみろ。この金曜にオベアマンのとこいくんだ。あしただよ、あしただよ。あたしオベアにいく、あんた糞だ。あんたをこの糞庭において、糞ガキらのめんどうみさせてやるわ。みてろよ。あたしがあんたの悪さにかたつけてやるから、みてろよ。

トーミーのパパ:オベアだれな、オベアだれな? ころしてほしいか? まってろ。ころしてほしいか? [パチン、パチン、ピシッ、ピシッ] オベアだれな、オベアだれな?

トミーのママ:ひとごろし、ひとごろし。(2)

トミーの姉さん:ママ、ママ!

トミー:(沈黙)(3)

 

 この会話の注釈:(1) トミーのパパは不倫と同じようにコーヒーが好き(熱くて、湯気がたってて、黒いやつ)、それをよく飲む。熟練タクシー運転手以上にこの町の裏も表も知ってることで広く知られ、称賛されている。それは女がたくさんいる男の何よりの証拠だった。(2) このような状況のもとでは、「助けて」とはあまり言われない。「ひとごろし」の方が注意を引くので効果が大きい。(3) このような両親の喧嘩でトミーが口をはさんだとき、パパは幼い民主主義者にひどい仕打ちをした。以来トミーは本物のゴキブリのように、痴話喧嘩にかかわらない。

 しばしトミー一家から離れよう。違う話が聞きたいから、家番号2、5、7、8に行くのはやめよう。ジョージーのパパが酔っ払ってちょうど帰ってきたから、11番も避けた方がよさそうだ。さてどこに行けば違う会話が聞けるだろうか? ブライアンのパパは自分の家の脇に立って、一箱のニコチンの一本一本に限りない愛着を見せながら、足で犬を蹴り飛ばしている(このクソッタレな敷地に住む犬たちは、一休みもかなわない、とぼくは誓う)。だからここも飛ばす。家番号6からはあまり会話は聞こえないだろう。ウェインがママと住んでいる。パパは家を出ていったから、最近はこの家から喧嘩の声は聞こえない。ウェインのママは以前に、みんなの前ですごく恥ずかしい方法でやりこめられた。ママの考え、夢、希望、意見のすべてが公の場でけなされ、ゴミ溜めに追いやられた。大々的に軽蔑され、ぼろくそに言われたので、そのあと何ヶ月ものあいだ、まともに顔をあげることも、口をきくこともできなかった。ひどいクソッタレなコカイン中毒女をとりあげてしまった。さてといったいどこに、どこに行けば会話はひろえるだろうか? ああ、わかったぞ。シモーヌの納屋に行ってみよう。

 シモーヌががらくたを詰め込んだ部屋に行く前に、まず主屋のシモーヌのママの家に寄っていこう。ぼくはジョセフィーヌおばさんの窓の下に立って、耳を澄ます。会話が多いとは言えないが、聞いてみよう。

ジョセフィーヌおばさん(35歳くらい)[シクシク、シクシク、シクシク*}

 

カルメン:神様がくださって、それで取り上げてった。

ジョセフィーヌおばさん:[シクシク、シクシク、シクシク}

カルメン:フーンフーンフーン、シーーハシーフーン。神様の思し召しがくだされた、ハシーハシーシー。

ジョセフィーヌおばさん:[シクシク、シクシク、シクシク}

カルメン:クンバヤ(来てください)、神様、クンバヤ、クンバヤ、神様。誰かの嘆きよ、神様、クンバヤ、誰かの祈りよ、神様、クンバヤ、、、

 

 *二番目の死産の子を埋めたせいで、世にも悲しい嘆きと泣き声が昨日まで聞こえていたが、今日はただシクシクと泣いている。1日前、家の裏でちょっとした埋葬式があった。教会から助祭が来て、バナナの木の下に埋められた屍を前に何か言った。ぼくの死産の妹は、グァバの木の下に埋められたので、そこには新たな赤ん坊を埋める場所がなかった。助祭が何か言ったのでその会話を記録したかったけど、機会がなかった。とりわけ助祭は聖書の言葉(伝道の書?)をとりあげ、最後に満足げに「今日はここにあるが明日は消え去る」と言った。そのときぼくはこう訊きたかった。「今日はここにあるってのを、糞な今日は消え去るにしたら?」 でも訊かなかった。助祭が何を言おうとしたか知ってたから。 

 ジョセフィーヌおばさんから離れよう。結局のところ、自分の歯の数よりたくさん子がいる女が、どうしてさらなる子を望むのか。ブライアンとともに、シモーヌのトタンの納屋に忍びよって、耳を澄ませてみよう。よしっ、会話があるぞ。

 

シモーヌ:そうよ、もっとつよく、もっとつよく、ふかくふかく!

そこにいた男:かんじるか?(ハァーハァー)かんじるか?(ハァーハァー) これをくらえ、このあまが!

シモーヌ:そうよ、そうそう!かんじる、かんじる、もっとつよく、つよく。わぁーわぁー。熱いわ、わぁー、熱いって。

ブライアン:そうだ、そうそう。もっと強くやってやれ。へへへ。

ぼく:シー。

そこにいた男:ファックしたのは誰だ(ハァーハァー)

 

 他人の家をのぞくのも、のぞかれるのも恥ではなかった。ぼくらがやってるのは、瞬き一つしない冷ややかな無限の目で、ただ静かに観察してるだけと、みんなが知っていたから。

 さてぼくを見てごらん、トタンの家から逃れて、4人の年上の仲間がドミノで遊んだり、浅い話題を深く掘り下げて話してるところへ歩いていくのを。でもここにもまた会話はあった。ぼくらが探してるようなものが。

 

ぼく:デイブ、あんたまた6ラブ(6−0)くってんかい、ヘヘヘ。

デイブ:そのクソ口とじてどっかいけ。

ぼく:ヘヘヘ。あんたそうとう押されてンな、デイブ。っぱなしかい。ケツ直撃か、デイブ、ヘヘヘ。

デイブ:おまえのかーちゃんねーちゃんに、夕べおなじことしてやったぞ。

年長の男子1:相棒、おまえ出すか?

年長の男子2:わかった。いくつまでいった? 5ラブ?

デイブ:5ラブなんだそれ。5ラブいったのか? 数かんじょうできねえんだろが。

ぼく:デイブ、6ラブとれそうじゃないか。

デイブ:なんだよくそったれが。おまえの糞な口ん中にパンチくらわせたろか。あっちいってかーちゃんのおっぱいでものんでろ。このくせえイカレ野郎(ホモ野郎)が。

ぼく:デイブ、くそ6ラブいけそうじゃないか。おれにはわかるって、デイブ。

*デイブたちは、ジャマイカでよくやる「ドミノ」ゲームをやっている。

 

 デイブが目に凶悪さをたたえて、折りたたみナイフに手をのばすと、そこにいた男子がみんな笑った。で、ぼくは一部屋きりの自分の家に向かった。小さなベランダでママが姉さんの髪をとかしつけてるのに出会う。さらなる会話。

 

ぼく:晩ごはんはなに?

ママ:(小さく)くそったれ。

ぼく:ケイ、ママどうしたの?

ケイ:あたしにきくなよ。あたしにきくなよ。

 

 というような感じ。

 でもそれがすべて悪いというわけじゃない。ぼくらもたまに下水管の闇から出てくることはあった。それで慣れない昼の強い光を受けて目を痛めた。ときにこんな会話を持つこともあった。

 

ぼく:ねえ、ガイ。ぼくぐぁいつかココ出てくあるとオモウか?

ガイ:ケニー、きみが学校にとどまって、その質問をしつづければ、あるかもな。