DISPOSABLE PEOPLE

​ディスポ人間

第11章

 

 親愛なるセミコロンさま、なんでイエス様がぼくを愛してくれるのかわからないけど、でも実際そうなんだ。

 ぼくが子どもだった頃、鼻の中に何か突っ込むのはみんながやってたこと。今の子もたぶん同じことをやってると思う。ビー玉はぼくらがよく入れるものの一つだった。それから小石も。ママはぼくにいつもこう言っていた。

 「ケニー、自分の肘を一度入れてみたらどうだい?」 ママは正しい。

 ぼくがテーンエイジャーだった頃、ガイという名の紳士と出会った。ガイは高校の英語の先生で、ぼくがいつか本を書きたいと話したことのある二人のうちの一人だった。もう一人は8年後に夢中になった女性で、宝くじに当たったみたいにすごいゴージャスなこんがり肌の黒人の女の子。二人それぞれの反応を覚えている。関係をもっと深めて、ただのいちゃつきからファックにまでこぎつけたくて、その女の子には自分を印象づけようとしていた。で、ぼくは「いつか本を書きたい」という重大ニュースを記したメモを彼女にこっそり渡した。ぼくらは英文学の授業を受けていた。そのメモはいくらかの効果はあったようだ。

 

いつかぼくは本を書こうと思ってる。

ステファン

 

 彼女が返してきたメモはこんな風だった。

 

あなたみたいな人といられて自慢に思う。作家になる前のあなたがやることを逐一知るのはどんなに楽しいことでしょう。素晴らしい未来がある男の人を知ってるって、興奮するし、からだの中を暖かな風が通りぬけていくようだわ。朝早くカリブのお日様を浴びているミドリカナヘビになった気分よ。

 

 そこまでのぼくら二人の教育レベルにはかなりの差があったんだな。彼女のメモは何年も日記帳にはさんで持っていた。

 ぼくは昼も夜もその子のことを考え、マドンナのニューシングルがチャートで馬乗り状態になるみたいに彼女がぼくに跨ってる図を思い描いて過ごした。マンゴーの汁はなんと甘かったことか。彼女がチョークを食べるのが好きだったことを覚えてる。ある教師など、グリーンのチョーク(彼女の好物)の端っこをとっておいてやっていた。テリ・アンというのが彼女の名前。

 話を戻すと、ガイの反応は彼女とはひどく違ったものだった。ガイはそのときこう言った。

 「ステファン、きみはまだたいして生きてないし、本を書けるほどの経験もない」

 で、ぼくはこう返した。「あんたみたいな人に何がわかるんだ?」 ガイにこう言ったのは、言われたことにがっかりしたから。それと他にもそう言いたい理由があった。それについて5年くらいたってから、こんな形で表している。

 

「検査」

 

最高にして一番上級の神の手で

この男は最上部に生まれた

しばし迷うことが

許されているにもかかわらず

なぜそれほどまでに見つけようとしたのか

誰も知ることがなかった

この男自身の

最下部にある

彼の存在の本質を

精神の崇高さを

 

K.ラブレイス(1989年ごろ)

 

 

 なんでこれを書いたかというと、近所の噂で、この男が1年の間に3人のでかい手の男の医者にかかって、前立腺の検査をしてもらったと聞いたからだ。この男はガンや前立腺の家系ではないけれど、「充分な」確証が得たかったからそうしたと言った、とみんなは話していた。ガイは黒人の手のでかい医者たちのところに行った。手の小さい中国人やインド人の医者だって、前立腺の検査に不足はないのだが。女の医者だって、ガイのケツの穴に指を突っ込むのに不足はなかったはず。

 学校でガイは、ある生徒が悪いことをしたのを捕まえて「おまえのちっちゃなケツの穴はおれのもの」と言ったという噂があった。その脅しと友だちからの冷やかしの狭間で、何カ月もの間、その子は悪夢を見た、と言われていた。

 またガイは、男は後ろから見た方が(ポルシェみたいに)かっこいいと思うタイプの人間だとからかわれてもいた。これを生半可に受け取れば、そういう男はゲイだということになる。ジャマイカの田舎では。ここでは親たちは、ゲイと比べれば、引退後の収入源としてヤギ泥棒を招く方がましと考える。

 よってガイは、ゴロツキ、年若い無法者、犯罪者、女たらし、マフィアであふれる国で、額に666の印がついた、死んで生まれた方がよかった「いかれ男」となる。ゲイに親しみを込めたレッテルが貼られることはまずないので。

 最初ガイはぼくの激白に反応しなかった。少しして「それはどういう意味なんだ?」と静かに訊いてきた。

ガイ、1985年

 ぼくらがすでに親しくて、ぼくの本の話以前にさまざまな話題を(自殺のことから数学をやる意義、ママの料理まで)共有していたことを考えれば、ぼくはこう訊ねてもいいと思った。「ガイ、あんたゲイなの?」 これがぼくが言ったこと。

 ぼくとガイは学校の食堂のそばのベンチに座って、校庭を見下ろしていた。ガイがこっちを見たとき、ぼくの訊いたことに答える準備ができてないことがはっきり見てとれた。罪人がキリストの方に向こうとして、求められていることにまだ答える準備ができていないために、再び目をそらすみたいだった。で、そいつらが本当にキリストの方に向くときというのは、ひどく取り乱したときか死んでいくときなんだ。だからガイの場合も、やつがこっちを向いたとき、まだそのときじゃないことが目を見てわかった。で、ガイはこう言った。

 「なんでそんなことを訊くんだ?」

 ことは明白だったから、ぼくはケラケラと笑った。年端のいかない男の子にいたずらをしたという噂のせいで、ガイの死に安値をつける者たちがいっぱいいる、という情報が出まわっていた。大の男が、ビー玉を入れるにも小さすぎるくらいの穴の年端のいかない男の子にいたずらする。これはぼくが聞いた噂話で、先生ともどもぼくの心から追い払う必要があった。それは究極の卑しいことで、次のことを知っていたからだ。

 

・ジャマイカの田舎にいるヤギ泥棒は、天国で神に背いたルシファー(天から落ちた大天使)と同じ。

・ジャマイカにいるゲイの男は、地獄に投げ込まれたルシファーと同じ。

・小さな穴の子どもにいたずらした大人のゲイの男は、天国にむりやり戻ろうとしたルシファーと同じく見下げた存在。

 

 さらには、暴徒たちは準備万端、待ち構えているという噂もあった。ガイはゲイではあるが、単に自分のカップからお茶を飲むだけ、というなら許されるが、そのお茶を大きなポットで他の人に注ごうとするなら、、、それは話がまったく違う、ということをみんなは言ってるのではないか。

 ということでまた暴徒の登場だ。田舎の農夫の暴徒たちとは違う。普通に働いてる暴徒だ。ジャマイカの田舎の暴徒と、知識人、専門職、労働者の暴徒とは違うと信じてる人々はいる。真実ではない。そういう人たちに、ぼくはこれを提示する。

 

グレンロイ

 

 ガイとの話から何年もたってから、ぼくはキングストンにあるカレッジに入学した。何千人もの学生がいて、いくつもの暴徒集団を形成するのに充分な数だった。そこにみんながゲイだと言っている男がいた。

 グレンロイはまったく普通の人間に見えた。頭に毛は生えてるし、毛が生えた頭があった。グレンロイには二つ耳があり、二つの目、まゆげ、まつげ(たっぷりと)があり、鼻が一つ、歯も舌もある口が一つ、首が一つ、あごが一つ、両肩、ひじ付きの腕、手首、爪付きの指、へそ付きの胴体、太ももとひざと足首、足の甲、爪の付いたつま先があった。そしてもちろん尻の穴もあって、それがグレンロイがゲイかもしれない理由だった。いちいち書き連ねているのは、これは重要なことだからだ。

 グレンロイは、後でわかったのだが、学生暴徒たちからうまく逃げられるほど賢くも俊敏でもなかった。朝の早い時刻に、このインテリ暴徒たちはグレンロイを捕まえた。あとになってサッカー場で彼は発見された。

 マンチェスター・ユナイテッドのホーム、オールドトラフォードは、これまでに人が目にした最も美しいサッカー場の一つだ。ぼくらの大学のサッカー場はそれとは違う。リバプールのアンフィールドに近いが、それよりも悪い。砂ぼこり舞うピッチだ。木々に取り囲まれている。その木を登っていくのは苔のみ。ぼくらがグレンロイを見つけたのは、メヒシバ生える哀しい痕跡の中だった。インテリ暴徒たちの手わざを目にしたが、その形跡は死者の叫び声と合致していた。やつらがグレンロイを襲ったあと、ぼくはこんな風にして彼を発見した。

 

保護区への旅

 

 仕事仲間の一人がぼくに、ナミビアに行ったことがあると話した。サファリのようなところだ。そこはライオンが2、3頭いる保護区だった。観光ガイドによれば、今見ているよりもっとライオンはいるとのこと。同僚の話では、そこには壁があって、郵便ポストくらいの窓が開いていてガラスがはめ込まれている。そこから観光客は中を覗いて、栄養失調気味のライオンを見て楽しむ。明らかに、1年前までは餌をやる人間がいて、餌やりに特別な装置を使っていた。30センチ幅の電車の線路のようなものの上を、チェーンが走っていた。餌やりの人はチェーンに肉を乗せ、装置のある部分を引く。チェーンが動いて肉が線路沿いに運ばれ、保護区の中の餌場まで行く。栄養失調気味のライオンは、死肉の臭いを嗅いで手を洗い、たてがみにブラシをいれて、夕飯の席に着く。

 話はつぎのように進む。ある日、チェーンが動かなくなった。餌やりの男は保護区の中に入っていって、チェーンの絡まりをほぐそうとした。詰まったチェーンはほぐさねばならない。餌やりの男がチェーンをほぐしているとき、見張り番がライオンは身なりを整えて夕飯に向かってる、と大声で叫んだ。餌やりの男は門の方に歩きはじめたが、また元の場所に戻って仕事を終えようとした。見張り番がそれを見て、再度声をあげた。

 「おまえなんてことしてんだ。そこから出るんだ!」というようなことを言った。

 ところが餌やりの男は穏やかにこう返した。「ここのライオンはおれを知ってる。こいつらは何年もおれを見てきた。餌をやってるのはおれだ、とこいつらは知ってる。おれを襲うことはない」

 それでこの男はライオンに餌をやった。

 のちにやって来た科学捜査班は、保護区の別の区域に餌やりの男のからだの部位を探すため出ていった。男の髪、頭、耳、目、まゆげ、まつげ、鼻、口、舌と歯、首、あご、肩、腕とひじ、手首、指と爪、胴体に胸とへそ、太ももにひざに足首に足の甲、足の指と爪のかけらを探すために。そして男の尻の穴も。

 これはぼくらがグレンロイの形跡を見つけたやり方とまったく同じだ。

 あの日、サッカー場に立っていたとき、洗礼者ヨハネみたいに、信心深いハエたちが、いい知らせがあると触れまわっているのを(相手は蛆とハゲワシだったけど)見た。

 「救済はここにある!」というのがやつらのいい知らせだ。

 いい知らせを耳にした犬たちもいて、同様にやって来たが、それは好奇心からだった。その犬たちと殺された男のことは、しばらく大学で話題の的になった。ある者は、人間が車を発明して、無生物に注意を向けるようになるまでは、犬は人間の一番の友だちだったと主張した。で、今は人間への仲間意識は消えた。それで犬たちはグレンロイに同情心などもたずにやって来たわけで、窮地に駆けつけることもなかった。それに対して、犬たちはジェンダーというものを理解してなかったから、女っぽい男は男と言えるのかどうか、親友として扱うに足るかどうかに悩んでいた、と滔々(とうとう)と語る者がいた。

 あの日、あそこでぼくが気づいたそれ以外の生きものと言えば、1組の蝶々だった。その蝶々たちはすでに長いこと夫婦として生きてきたとわかった。許されている13日間のうちの12日目を生きていた。その目には長い人生で得た生物としての知恵と見識が見てとれ、ものごとの本質を理解していた。これが蝶のカップルの差し迫ったこの世との別離とあいまって、あのとき涙した原因だったのかもしれない。カップルが羽をヒラヒラとはためかせ、この世で最後の木曜日を過ごす場所を探しに空に向かって飛び去る直前に、彼らの目に涙がたまるところをぼくは見たと思う。

 (ベルばあちゃんはこのときにはもう死んでいたけど、グレンロイのことを何と言うか、ぼくにはわかる)

 ガイの話に戻ろう。あいつは結局のところぼくの質問には答えなかった。今日に至るまで。 

 ガイはひどく困難な子ども時代を送ったにちがいない、とぼくは想像してた。

 ジャマイカに住んでたころ、自分のケツの穴がきつくて詰まってるみたいに感じることがよくあった。その頃、ケツの穴がどんな風かの絵をノートに描いていた。これがそれ。

Ø

 この穴の上に、こんな標識を付け加えた。

警告:私有地に入るべからず

 この標識が下のものとまったく違うことを覚えておいてほしい。下のは人によってはひどいものだと思うだろう。

警告:入るな。侵入した者は犯される

 ぼくはもうジャマイカには住んでないが、自分のケツの穴は今もこんな風だ。

 

 

Ø

 

 

 標識は今もある。最初の方のやつ。