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photo by Carsten ten Brink(CC BY-NC-ND 2.0)

クワシダ ー ンキ・クワシ

(日曜日 ー 第三週七日)

ニイ・アイクエイ・パークス

 鳥たちが啼きやむことはなかった。そう、何かことが起これば、鳥たちは歌をうたいはじめるんだ。わたしのじいさんの時代には、森は大きくてふかいふかい森だったから、野ブタを捕まえるのにそう遠くに行かなくてよかった。うん、野ブタの足跡は村のへりまで来ていて、獲った肉の味わいは、わたしらにとって水みたいなものだった。しこたま食べたものだ。よく覚えているさ。今はあいつらは森のずっとずっと奥にいる、野ブタはな。だがすべてはオニャメの大きな手の中にある。オニャメ、光かがやくオニャメだけが、ヤギの糞がどうしてああも美しいのかを知っている。わたしらは文句を言ったりしない。森に行けば、そこが天国のように素晴らしい場所だとわかる。鳥たちはみんな色とりどり。赤いの、海みたいに青いの、黄色いの、葉っぱ色のもの、真新しいキャリコのように白いの。あそこで見つけられない生きものがあるかな。わたしの持ち帰った獲物で、一番小さなものと言えば、アダンコだ(ンダンコを捕まえるのは難しくない。ンダンコは隠れているときも、耳が突き出ているから見えてしまうんだ。もしわたしがンダンコの生みの親だったら、とがった耳の先に目を付けただろうな、そうすりゃ安全だ。でもそうなると、わたしがンダンコを捕まえるのが難しくなる。飢えることになっただろうな。うーん、ンダンコよ。あいつらはすばしっこいが、わたしにはいろんなワナがある。それが猟師の暮らしというものだ)。

 だからわたしらは文句など言っていない。村は住みやすい。わたしらの村は、首長の村に近いから、何かあればそこに行って相談すればいい。といっても、この村はたった十二世帯しかないから、問題は起こらない。コフィ・アッタは別だがな。コフィ・アッタはわたしの親戚だ。でもわたしは服が自分で着れるようになる前から、母さんにあの子は困ったことを持ち込む子だと言われていた。覚えているよ、父さんが前の晩にオトゥエ(レイヨウ)を捕まえてきて、母さんがアベンクワンをつくっていたときのことだ。

 ヤウ・ポク、と母さんが言った。あの子と遊ぶときは、目を離すんじゃないよ、いいかい。

 ヨー(わかった)。

 ヤウ・ポク!(母さんは同じことを二度言う人なんだ) コフィ・アッタと遊ぶときは目を離すんじゃないって言ってるの。わかった?

 ヨー。

 母さんはわたしの手をとって、温かいスープを注いで味見させた。それからこう言った。あの子の母さんが出産のとき手伝った女が、へその緒をなくしたんだ、わかったかい? 母さんは頭をふった。あの子のへその緒は埋められていない。そういう子はいつか困ったことを引き起こすんだ。

 だからわたしはびっくりすることもないのだろうけど、もうそのことは忘れていた。そういうことは誰も、考えていなかった。いわば光みたいなものだ。昼の間は光なんて、そこらじゅにあるわけで、誰も気にしたりしない。でもこのわたし、ヤウ・ポクは猟師だから、光に驚かされることはある。わたしは森の暗がりになれているんだ。森を歩くと、ナイフで切り込まれたみたいに、光がわたしに落ちてくる。森を歩いているときは、光よりも音の方に気をとられている。だから光はわたしを驚かすんだ。それと同様に、いくら母さんから目を離すな(気をつけろ)と言われていたとしても、わたしは驚いてしまったんだ。

 

 あいつらがやって来たとき、わたしらは村のどこかしらにいた。初めに来たのは目をキョロキョロさせた若い女だった。ふーむ、せっかくここにいるのだから、ちょっと聞いておくれ。先祖たちは真実というのは短いものだと言った。でもな、ふふん、その話が悪いことなら、真実も、車にひかれてペチャンコになったカエルみたいに、あいつらが作った新しい道路の上で伸びて広がるもんだ。このわたし、じっと屈んで、じっと見張る、このわたしヤウ・ポクは、アテワからカデに至る森から森を歩きまわり、この地をゆくダイカー、野ブタ、コブラ、ヒョウたちを見てきた。そのわたしも驚いた。でもな、寒くなる前に話をしよう。わたしのじいさんのオポクはこんなことを言ってたな。枯れることのない話の泉をもった人だった。イギリス人が「歴史」と呼んでいるお話は、ほとんどが脚色されたウソだとな。これはそういう話とは違う。クモの巣編みの賢いアナンセも、言いふらさなかったと言うことだから、わたしが話そう。わたしがその話をしよう。

 

 あれはンキ・クワシ(第三週七日)のクワシダ(日曜日)のことだった。クル・クワシ(第四週七日の日曜)のちょうど一週間前、そのとき死や葬式のことを話すのはな、ふふん、タブーだと考えられているんだ。ナウォトゥエ(アカン暦で1週間=8日)で、あっち側に行った者に献酒を注ぐ前の日だった。その日のことはよく覚えているが、もしわたしがウソをいっていると思うなら、ボノ一族に訊くといい。何世紀もの間、アシャンティ族を治めてきた者だ。

 あの女がやって来たとき、わたしらは村のどこかしらにいた。その女は目が落ちつかないやつだった。わたし自身はそのとき、ヤシ酒づくりの小屋から出てきたところだった(ヤシ酒売りの女は、クワシダの日は店を開けない。アクラという大きな街に行って六年間暮らし、女は戻ってきたが、村に帰ってきてからは日曜は休業だといって店を開けない。街に出ていく前は、トマトを道端で売っていたんだがな、まあこれは余談だ)。ヤシ酒づくりは特別製の酒を特大のひょうたんに入れて渡してくれ、わたしは自分の小屋に戻るところだった。そのとき女が、わなにかかった草刈り人夫みたいに大声をあげたんだ。いやいや、わたしは酒に酔っていたわけじゃない、それで小屋の中にヤシ酒を置いて、村の広場のトゥエネボアの木のところまでやって来たんだ。

 女はちっさいちっさいスカートをはいてた。腿がな、ふふん、丸見えだったが、その脚ときたら赤ちゃんオトゥエの前足くらいしかなかった。ホソーーッこいんだ(あとで知ったんだが、あの女はある大臣の女だそうだな。ふーむ。この世は驚くべきことばかりだな)。女の運転手はコロ・マン(アーミー)みたいにカーキの上下を着ていて、女を静かにさせようとしたが、女は頭をふりふり叫びっぱなし。それから女は正気に戻り、道端の白っぽい車の方に走っていった。運転手がそのあとを、女が立てた埃かなんかみたいに追っていった。

 村の広場で遊んでいた子どもたち(オフォリワアとクシと双子のパニンとカクラ)に、わたしが何があったと訊くと、クリーム色のベンツが来てとまると女の人が鼻をつまんで、青い頭の鳥(この村にはきれいな生きものがいっぱいいるんだ)を追いかけていったと言う。女は運転手を呼び、二人はコフィ・アッタの小屋のところまで鼻をくんくんさせながら歩いていった。二人は「アゴー」と声をかけたけれど、返事はなかった。それで運転手が入口のケテ(布)を持ち上げて、女が中に入っていった。入っていったと思ったら、女が大声をあげたんだ。まだ朝のことで、その声は森を震撼させた。だが本当に驚くべきことが起きたのは、二人が去ったあとのことだった。まったくなあ。空のワシでさえすべてを見てはいなかった。

 

 太陽が真上に来て、空の真ん中にいすわっていた。わたしはトゥエネボアの木のそばの倒れたヤシの木にすわり、ラジオを聴きながら(このところ、わたしは最近できたサンライズFMをコフォリドゥアから受信している)ヤシ酒を飲み、子どもたちがやって来て遊んでいるのを見ていた。最初の車がすごい勢いでトゥエネボアの木に向って走ってきて、甲高い音をたててとまり、もみ殻を飛ばすように砂ぼこりをたてた。木には二羽のアブルブルがいた。いいかな、最初の車のところに他の車が押し寄せて、その二羽の鳥はうがいをするみたいな音をたてながら、大きく羽を羽ばたかせて飛び去っていったんだ。全部で五台いたな。警察の車だ。最初の一台は、よく目にする警察の車ではなかった。屋根に長いアンテナをつけたピンスガワー(オフロードの軍用車)だった。わたしがどうしてそれを知っているかは、重要だ。ピンスガワーは軍が訓練でジャングルに入っていくとき、使う車だ。猟をしているときに、見たことがあるんだ。

 民間服を着た大きな男がピンスガワーから降りてきた。その男は黒くて太いアボム(ベルト)をジーンズに巻いて、落花生を食べていた。

 ここの長はどこだ?

 子どもたちがアサレの農地の向こうにある、大きなカポックの木を指した。首長はあっちの村に住んでます。

 他の警察官たちも車から降りてきた。みんな揃ってくろいくろい服。警官が一人、一人、一人、一人、、、で九人、こんな朝も早い時間に、わたしらの村に出揃って。民間服を着た男が右を見、左を見、そしてカポックの木の向こうにある、わたしの母の青いサンヤア(エナメル加工)のたらいを眺めているのに気づいた。それは母親が死んだ後、わたしが屋根の上に置いたものだ。そのたらいは穴だらけになるまで、母親が水を汲んで運んでいたもので、そのあと畑にもっていって、底に大きな穴があくまで、野菜を収穫するとき使っていた。わたしはそれを、家の屋根の茅の上に置いたので、森から帰ってくるとき、遠くからでも自分の家が見えるというわけだ。その警官が見ているので、わたしも同じように見た。それから警官はわたしを見て、指さしながら言った。

 おまえ、英語が話せるか?

 おや。この男は尊敬の念というものを知らないのか、それとも、ふふん、わたしが頭を剃っているから、七十四だということがわからないのか。わたしに話しかけながら、こいつは落花生をクチャクチャやっている。わたしは黙っていた。ひょうたん椀をもちあげて、クワク・ウスのヤシ酒を少し飲んだ。これはなかなかうまい。クワク・ウスは、わたしらの首長の十六の村とナナ・アファリの十二の村を合わせた中で、一番上等なヤシ酒をつくる。

 おい、おまえ。その警官がそう言ってわたしの方に歩いてきた。子どもたちがそのまわりを飛びまわっていた。オフォリワアが「とうさん警官」の歌を手を打ちながら歌いはじめた。この女の子はいつも歌っているんだ。クシは八人の制服警官のそばに立って、銃を触ろうとして追い払われていた。この警官たちは、いつでもどこでも銃を携えている。猟師であるこのわたしでさえ、クワシダ(日曜)には猟銃の長い柄を休ませるのにな。

 この人の名前はオパニン・ポク(ポク長老)です、と双子が言った。

 ほう、とその警官(この隊の長らしい)が言った。そいつは母親からのしつけをやっと見せ、落花生を飲み込んで、両手をうしろにまわして言った。オパニン・ポク、そのう、英語は話せるんでしょうか?

 わたしはにっこりしてヤシ酒を飲み干した。すこし、すこし。わたしはンクルマア成人講座に通ってるんだ。

 よし、じゃあいいかな。わたしタンマリの時間もたない。わたしアクラの家にいる、そこで女がココ何か臭うものを見つけたと電話あった。そのことについて何か知ってるか?

 はあ、長老たちはこう言ったものだ、ニュースというのは鳥みたいにせわしないとな、がそれはこのことだ。あの女は朝にやって来た、まだ朝のうちだった、昼はまだまだだった。だがこの警官たちはアクラからやって来て、もうここにいる。タフォには警官などいないとでもいうようにな。わたしは警官に首をふった。

 その女は見たのか?

 あー、そうだ、おまわりさん、見たよわたし。こんな、ホソーーッこい女だ。

 警官がにっこりした。それで何か臭うアッタカ?

 いや、何も臭うナカッタ。

 そうかそうか。警官は他の警官たちの方を振り返った。おまえたち何か臭わなかったか?

 はい巡査部長、腐った肉みたいな臭いがしました。

 了解。警官はわたしの方にまた向き直った。おまえはそれで、何か臭うアッタカ?

 いや、巡査ブチョ。

 警官は頭をふった。じゃあ、女はどっち行ったんだ?

 アクラ。

 いやそうじゃなくて。どっちの方にここから行った? 警官はトゥエネボアの木を指した。

 わたしはコフィ・アッタの小屋を示した。

 警官は手をおろして黒い警棒をアボムにしまった。行くぞ。

 他の警察官たちがこの男に従った。ちょっと行ったところで、巡査ブチョは立ちどまり、わたしの方を見た。オパニン・ポク、頼む、ちょっとあんたも来てくれ。

 わたしはクシを呼んで、ひょうたん椀とラジオをもっていかせ、家の前に置いておくように、それからママ・アクに少ししたら戻ると言ってくれと頼んだ。それから立ち上がって、警察官たちといっしょに歩きはじめた。

 巡査ブチョは子どもたちを家に帰そうとしたが、子どもたちはご機嫌に歌をうたい、帰ろうとしない。巡査ブチョがわたしを見た。

 みんな、とわたし。ふざけてないで、家に帰れ。

 子どもたちは警官のあとを追うのをやめて、帰っていった。

 と突然、巡査ブチョは手を叩いて呼びとめた。子どもたち、何か臭わなかったか?

 いいえ、巡査部長。子どもたちは笑いながら走り去った。

 巡査ブチョは眉をひそめてわたしを見た。オパニン・ポク、なんでわたしらが臭いアッタというに、あんたらここの人は何も臭いナカッタのか?

 わたしは笑い声をあげた。巡査ブチョ。トゥイ語で話させてもらうのいいか?

 そうか、オパニン、かまわんよ。

 で、巡査ブチョ、いいですか。ふふん、わたしらの村はヴァギナみたいなもの。村の内にいる者は平気だが、村の外から来た者は臭いと思うんだ。

 

 

***

 

 

 コフィ・アッタの小屋の前は乱雑だった。ビーディー(炭)の山が炉のそばにあり、戸口のところに壊れた水瓶があった。水瓶のかけらの黒曜石がケテ(布)の下にあり、巨大なコウモリの目でも転がっているように見えた。巡査ブチョと他の警察官たちは鼻をつまんで、互いの顔を見合っていた。こいつらは恐がっているんだ、とわたしにはわかった。巡査ブチョがケテを指して、背の高い黒みの薄い肌色の警官がそれを持ち上げた。わたしは中に入り、ひとかたまりの警察官、九人で一つの警官たちも中に入った。誰ひとり、光が入るよう、ケテを上げておこうとは思いつかなかった。わたしは平気だ。中は暗かったが、わたしには見えるから。コフィ・アッタの小屋の屋根の茅葺きには、小さな隙間があって、そこからわずかな日の光が漏れてきていた。ふかいふかい森の中みたいにな。古くなったヤシ酒の臭いを感じた(コフィ・アッタはヤシ酒を古くなるまで置いて、苦みが増して強くなったものを好んでいた)。コフィ・アッタのケテの上に、生まれたてのオトゥエくらいの大きさのものがあった。

 カイ、と巡査ブチョが叫んだ。ここは何か臭うぞ。懐中電灯をアボムから取り出すとスイッチを入れた。

 とその途端、警察官全員が大声で叫びはじめた。あ-、アウラデ! エイイェス! アセムベンニ! それを聞いてわたしは笑ってしまった。ちょっと前まで、こいつらみんな英語でしゃべっていたんだからな。でも、ここで見たものは、、、普通にどこででも目にするもんじゃない、それは本当だ。このわたし、ヤウ・ポクでもな。人が恐怖にさらされたとき、口から出てくるのは、赤ん坊のときからの言葉、そこに戻るんだ。

 コフィ・アッタのケテの上にあったものは恐ろしいものだった。それは黒光りしていたのだが、背の高い黒みの薄い肌の警官が近づくと、ワンシマ(蠅)だとわかった、アペンアペンうじゃうじゃのワンシマだった。ワンシマがいっせいに飛び出し、小屋の中はブンブンいう音でいっぱいになった。わたしは壁際に逃げたが、警官たちは取り囲まれ、足を踏み鳴らし手で追い払おうとした。わたしは振り向いて、コフィ・アッタの窓の穴にかかっている布をどけた。それでワンシマはみんな出ていった。一匹か二匹、まだあたりを飛んではいたがな。太陽が小屋の中に差し込み、そこにいた全員がケテの上のものを見た。それはまるで、ふふん、皮をむかれたアダンコみたいで、でも骨がまったくなく、あかいあかいもので女の月のものみたいだった。

 これは死んだ赤ん坊だ、と背の高い黒みの薄い肌の警官が言った。

 巡査ブチョが頭をふった。

 もう一人の色の黒い、でもくろいくろい肌ではない、前歯にすきまのある男が言った。こりゃ、普通じゃないな。

 巡査ブチョは後ずさりして、両手をジーンズの尻のポケットに突っ込んだ。よっしゃ、諸君、われわれの任務を忘れちゃいけない。メンサー!

 背の高い黒みの薄い警官が振り向いて言った。はい、巡査部長。

 この家を封鎖するんだ。巡査ブチョはわたしの方を向いた。オパニン・ポクよ、これワア何だかわかるか?

 ゼンゼン、巡査ブチョ、とわたしは答えた。わたしは本当にショックを受けていたんだからな。こんなものを見るはめになるとは、ふふん。大いなる力なきものが、こんなものに出くわすもんじゃない。すぐにでも、献酒を捧げなくては。ここで起きてるすべては、あのホソッこい腿の、ちっさいちっさいスカートの女のせいだ。あーそうだ、ヤシの実一つでヤシ酒はひどくもなる、と年寄りたちが言ってたことはウソじゃない。わたしはコフィ・アッタの小屋を出ると、外で頭をかかえた。

 巡査ブチョは、中に背の高い黒みの薄い警官だけ残して、警官たちと外に出てきた。巡査ブチョはアボムから無線機を取り出し、どこかボタンを押すと話し始めた。

 ドンコル警部、オフォス巡査部長からのお知らせです。われわれは人間のからだの何かじゃないかと、はい警部、、、はっきりはしないんですが、、、そのブツについては、なんともよく、、、はい警部。われわれの力ではどうにも、、、すみません、警部。そうです、警部、いえ、もちろん何とかやってはみますが、警部。検視官を呼ぶことはできます。コフォリドゥアを当たってみます、はい警部、尋問の方もすぐに始めます、、、はいそうです、警部。はい、警部。何かあればまたお知らせします、はい警部。

 話し終えると、巡査ブチョは警官たちの方に向き直って言った。よっし、二人ずつ三つの班になれ。大人も子どもも、男も女も、この村の全員に話を聞いてこい。メンサー、おまえはそこでこの小屋を警備していてくれ。ガヴ、ここで待ってろ。

 前歯にすきまのある男が答えた。わかりました、巡査部長。残りの警官たちは村の中央に向かっていった。

 巡査ブチョはシャツの胸ポケットに手を入れて、落花生を取り出し、くちゃくちゃ食べ始めた。そしてこちらを見た。ヤウ・ポク、おまえはあれが何だか知らないと言ったな。

 わたしは巡査ブチョを見た。この若造は、子どもの頃のしつけを忘れてしまってる。このわたしをヤウ・ポクと呼びつけている。わたしがこの男の手助けをしていることを、すっかり忘れてしまってるんだ。偉そうに役人づらをさらして、わたしに英語で話しかけている。人は実のなる木の下で火を焚いたりしないもんだと言ってやりたかった。でもこいつら若いもんは、手にしてる知識は自分らが発明したもんだと思い込んでる、だからわたしは答えなかった。

 ここに誰が住んでるのか、知ってるか?

 コフィ・アッタと呼ばれてるやつだ。わたしは歩き出した。

 巡査ブチョが追ってきた。おまえどこへ行くんだ?

 献酒を捧げに。

 巡査ブチョは笑い出すと、コフィ・アッタの小屋の入口にむかって手を振った。ガヴ、行くぞ。コフォリドゥアだ。

 トウェネボアの木に着くと、一人の警官が農夫のアサレを揺さぶっているのに出会った。男の妻と子どもがそれを見つめていた。こいつらときたら。警官、弁護士、大臣、こいつらには永遠にわからないことだ。法律書や銃権力というのは、人間をどう扱うべきかを人に教えることがない。わたしらには自分たちのやり方というものがいつもあった。農夫が生まれるよりずっと前から、サルはものを喰ってきたということを忘れるな。わたしは頭を振って、自分のヤシ酒を取りに歩いていった。

 

 

***

 

 

 巡査ブチョが戻ってきたときには、わたしらみんなが怒っていた。わたしらはトウェネボアの木のまわりに集まっていて、警官たちがするどんな質問にも答えないことにした。村の者全員がだ。ただし森に住んでいる三人の男の子とその子たちと一緒だったオドゥロ、この四人はアサレの農場の近くの二本のプレケセの木のところからこっちを見ていて、そこにはいなかった。トウェネボアの木のまわりに集まろうと言ったのは、ガワナだった。ガワナいわく、警官はたくさんではない、あいつらがこっちを無理強いすることはできない、とな。まことにそうだ、パアア(とっても)、ガワナはわたしを喜ばせた。この子はいい大人になるだろう。ガワナはクマシの学校に行っているが、この日は休日だった。いいかな、この子のような学校に行っている者でさえ、えらそうな英語をしゃべったりしなかった。ガワナはいい子だ。この子は本当はこの村の出ではないが、わたしらの仲間だ。わたしはガワナに、きみはいい猟師になるぞ、と言っていた。

 ガワナの祖父はここに1954年にやってきた。その祖父が言うには、ケニアからの道のりをずっと歩いて、ときにトラックに乗せてもらいながらここまで来たんだと。コヨ・セイが言葉を訳してくれたのだが、わたしらはその男が言ったことがまるで信じられなかった。コヨ・セイは作り話をすることで知られていたからな。実際のところ、祖父のガワナはとても見映えのいい男で、すべすべした黒い肌に、面長な顔、大きな目をしていた。あんまり見映えがいいもんで、ある女(わたしの姉のだんなの母親の妹の娘のアマ・セルワアア)が、ガワナに恋をしてしまった(わたしらの村の女たちは、両親が賛成すれば、自分の男を選ぶことができるんだ。結婚は家族の問題だからな)。ガワナはトゥイ語がしゃべれるようになってから、ケニアでイギリス人が自分たちの睾丸を切り落とすので、逃げてきたと言った。最初わたしらは大声で笑ったさ。ふふん、いったい誰が人の睾丸など切り落とす? だがガワナはわたしらに、道で背中を打たれたときのいくつもの傷跡を見せたんで、わたしらも話を信じるようになった。面と向って名前を尋ねたことはなかったが、アマ・セルワアアがこの男をガワナと呼んでいるのを耳にした。それからというもの、わたしらはこの男の家族全員をガワナと呼ぶようになった。大きいガワナ、小さいガワナ、女の子のガワナ、男の子のガワナ、そしてこのまだ若いガワナがわたしらの仲間だ。首長の息子と同じように、トゥイ語を話している。ここにいる警察官たちの正面に立って、わたしらを侮辱するのをやめろ、と言っている。あー、先祖たちは、アブスア・イェ・ドム(家族の力は大きい)と言えば、それが何を意味するかわかっていた。もし家族が自分のために戦おうとしなかったら、いったい誰がそれをする? 家族というのは、一つの軍隊のようなもんだ。

 巡査ブチョが連れてきた男(検シ官)は酔っぱらっていた。その男の目がとろんとしていたからな(わたしはヤシ酒小屋の常連だ、だから酒飲みがわかる)。巡査ブチョは部下たちがわたしらから何も聞き出せなかったと知ると、この無能どもがと、そいつらに向って怒鳴りちらした。巡査ブチョは部下たちに車に戻って待機しろと言い、検シ官と前歯に隙間のある警官といっしょに、コフィ・アッタの小屋に向った。村の者たちは家に帰り始めた。わたしの妻のアクもいっしょだったが、わたしはといえば、木のところに留まって見ていた。背の高い黒みの薄い警官はまだ、コフィ・アッタの小屋の入口のところに、長い銃を肩から掛けて立っていた。

 二人が小屋から出てくると、巡査ブチョが難しい顔つきで検シ官に質問をした。じゃあ、あれが何か断言はできないと?

 ええ、わたしは死体を扱ってきましたがね。あれは死体じゃない。

 じゃあ、何です?

 他の何かでしょうな。後産のようにも見えますが、それにしてはちょっと大きい。検シ官は地面につばを吐いた。この男は健康じゃないな、吐いたタンがバッタをつぶしたみたいな色をしてる。

 死体じゃないっていうのは、確かですか?

 巡査部長、あれには骨がないですからね。人間には骨があります。

 巡査ブチョがうなずいた。ちょっと失礼、先生と言って、巡査ブチョは無線機を取り出すとまたそれを押して、話し始めた。

 ドンコル警部、わたしです、、、はい警部、ここにおります、、、検視官が言うには後産ではないかと、、、いいえ、確かではないと言ってますが、、、はい警部、それにつきましては、こちらはもう夜にかかってまして、犯罪があったという証拠もないんです。この件、これで取り下げてはどうでしょう、、、すみません、はい警部、、、すみません、はい、はい。いえ、警部の判断に疑問を呈しているわけじゃないです、、、ドンコル警部、もうしわけございません。はい、あれが大臣の恋人だったというのは承知してます、、、はいその通りで、警部。では先に進めましょう、、、ああ、あの学士ですか、、、名前は覚えていません、警部。会ったことがないんです。DI. バアーが面接した男です。連絡してみましょう、はい。ではアクラで。

 巡査ブチョは無線機をアボムに戻し、トゥエネボアの木の方に歩いていった。検シ官がおぼつかない足どりでそれに従った。

 よし、と巡査ブチョは言うと、車の後部に立ち屋根をポンポンとたたいた。先生をコフォリドゥアの飲み仲間のところにお連れして、明日の朝、リングロードに報告してくれ。残りの者はアクラにまっすぐ帰れ。寄り道はなしだ。巡査ブチョは背の高い黒みの薄い警官に合図を送ると、そいつがこちらに走ってやって来た。

 外は暗くなり始めていた。この村には電気がない。太陽はわたしの小屋の向こうで赤く沈むところだ。わたしの妻が家で待っているのはわかっていた。警察の車は列をなして出ていき、子どもたちがそれを見ようと集まってきた。オフォリワアが「とうさん警官」の歌をまたうたいはじめた。

 メンサー、と巡査ブチョが呼んだ。おまえは今晩ここに残って、現場を見張ってるんだ。

 わかりました、巡査部長。

 こんなことがいかなる者にも役立たないのはわかってるけどな、大臣の女のことだからな、我々はやるだけのことはやらねば。警部は誰かこの事件を解けそうな人間を知ってるようだ。明日その人間が来たら、おまえはアクラに帰っていい。

 わかりました、巡査部長。警官はためらいがちに、頭をかきながらこう言った。手当はなしですか? 

 巡査ブチョは片手を後ろポケットに入れると、札束を取り出した。五千セディ札六枚をとって、背の高い黒みの薄い警官に渡した。そしてくるりと向きを変えてピンスガワーの方へと歩いていった。前歯に隙間のある警官が、運転席にすわっていた。その警官が窓から首を出すと、巡査ブチョに訊いた。警部が明日連れてくるのは誰ですか?

 どこかの学士らしいな。巡査ブチョは手をポケットに入れて、落花生を取り出した。こんなきれいな場所がこうも臭いとは、まったくわからんもんだ。二人は声を揃えて笑った。巡査ブチョが助手席にすわると、軍用車は出ていった。あの巡査ブチョ、出ていくときにちらりともわたしの方を見なかった。(いったい、この村に何が起きたっていうんだ?)

 

 あいつらがここに来たとき、わたしらは村のどこかしらにいた。最初にあの女が運転手とやって来た。それからあの一団、九人で一つの警官ども、そして酔っぱらいの検シ官だ。今ここに残っているのは背の高い黒みの薄い警官(ガ族の人間だと思うが)、それと警察車(子どもらが日暮れどきに登っていたやつ)だ。で、やつらが言っていたのは、明日は学士が来ると(明日の朝に、首長に言っておかなければ)。わたしらはそれを待っていた。人は自分の考えをもつが、先祖たちにも考えというものがあり、それは必ずしも一致しない。大地が必要とするものは、わたしらが必要とするものより大きい。わたしらは不満をもらしたりしない。わたしの父もその父も、猟師だった。そのように決まっていた。わたしの二人の息子はわたしのあとを継がなかった。二人とも南に住む母親の家族の元へと出ていった。だからわたしがこの村の、最後の猟師なんだ。わたしはここの森や川で起きたすべてのことを見てきた。それをたくさんの若い衆に話してきた。だが若いのはみんな街に行って金を稼ぎたがる。どんな話かといえば、どうやってデンス川を下ったかとか、丸木舟に乗って、流れがわたしを運んでいくときに鳥の歌声から学び、土手のところにいろいろな模様の蝶々が飛びまわるのを眺め、南のマングローブ林のところに着くまでずっーと、手を魚でも泳いでいるみたいに水の流れに浸していき、その南のマンングローブでは、わたしの妻が裸で水浴びしていたんだ。妻の尻は大きくて黒くてな、脚は頑丈で蟹股だった。妻の美しさは、錦ヘビのロイヤルパイソンをしのぐほどだった。そういう話が若い衆の気を惹かなかったとしてもだ。やつらが言うには、今じゃきれいな女はどこにでもいる、とな。だから言うんだ、若い衆に、美しければいいというものじゃない、美しさで借金までは返せんからな。だがやつらは聞いちゃいない。

 呪医のオドゥロは助手を見つけることができないし、若い衆はオドゥロのことを今では信じちゃいない。みんなが錠剤を欲しがっているときに、やつが渡すのは葉っぱだからな。

 ものごとは変わるものだ。が、夜はいつも同じようにやって来た。わたしは長いこと外に居過ぎたようだ、妻の元に帰るときが来た。あの黒みの薄い警官はタバコでも吸っていたんだろう。臭っていたからな。眠らずにいたいのなら、コーラの実を噛んでるほうがいい。タバコでは一晩じゅう目を開けていることはできない。(そうだ、コフィ・アッタだ! この村にやつらが大挙してやって来て好き勝手してるのは、おまえのせいだった) わたしの目は口にできないものを見てしまったが、死にざまに、ふふん、眠りを邪魔させてはならない。だからわたしは家に戻った。この世に生きる者は知っている、闇というのはいっときのものだ。朝が光をもたらしてくれるからな。

「クワシダ ー ンキ・クワシ」は、『青い鳥の尻尾』(2014年、葉っぱの坑夫刊)の第1章の抜粋です。

日本語訳:だいこくかずえ

 

ニイ・アイクエイ・パークス

ニイ・アイクエイ・パークスはガーナの作家。1974 年イギリスに生 まれ、ガーナで育った。パフォーマンス詩人でもあるニイは、イギリ ス、ガーナ、ヨーロッパ各地、アメリカなどでリーディングイベント に活発に参加してきた。2007 年、詩と文学への功績に対して、ガー ナ ACRAG 賞 を 受 賞。 詩 集 に、"Ballast: a remix" (2009 年 )、"The Makings of You" (2010 年 ) がある。前者はイギリスの新聞ガーディア ンに「パワフルかつ驚きの、歴史と言語のリミックス」と賞賛された。 この小説の原典 Tail of the Blue Bird は、2010 年度の Commonwealth Prize(Best First Book) の最終候補作品となった。最新刊の詩集として、『The Geez』 (Peepal Tree Press, 2020)がある。