Photo by Hidehiro Otake

動物の森 1999 - 2001

ノースウッズで出会った動物たち

大竹英洋

##オオカミ##

足跡

 

朝起きて小屋の外に出てみると

うっすらと積もった雪の上に

真新しいオオカミの足跡が点々と続いていた。

##カンジキウサギ##

近づいてくる

 

道のむこうからカンジキウサギが走ってくる。

一定のリズムでどんどん近づいてくる。

とまる気配はまったくない。

もう目の前。

 

とうとうぼくの脇をなにくわぬ顔で走り去っていった。 

##カワウソ##

カワウソの家族

 

凍った沼地を眺めていると、

遠くの岸辺に動くものが見えた。

 

黒くて長細いかたまりが3つ、

もつれあうようにうごめいている。

 

あたりをきょろきょろ見回しながら、

勢いよく氷の上に身を投げ出して、

お腹ですべるようにして進んでいく。

 

一目散に湖面を駆け抜けると、

ビーバーダムの向こう側へと消えていった。 

 

##ビーバー##

ただいま

 

対岸の茂みがごそごそ揺れたかと思うと

一匹のビーバーがアスペンの若木をくわえて降りてきた。

 

そのまま水に入り、泳いでアスペンを運んでいく。

 

ビーバーロッジに着くと

三匹の子どもたちがでてきて

声を立てながら枝をかじり始めた。 

 

##クモ##

陸続き

 

壁を這い、天井にぶら下がる。

揺れる湖面をすいすいと歩く。

##カケス##

おやつ

 

あんまり天気がいいので

小屋にあった木の椅子を背負って

森の中へ散歩に出かけた。

 

トナカイゴケの絨毯を敷き詰めた1枚岩の上で

ひとり椅子に腰掛けて休んでいると、おなかが空いてきた。

 

ポケットからパンとナッツをとりだすと

はやくもカケスたちが松の梢に集まって来た。

 

##フクロウ##

グレート・グレイ・アウル

曇った空から吊り下げられた振り子のように、

弧を描いて木々のあいだを飛び移っていく。

 

立ち枯れのてっぺんに止まると、

すぐさまカナダカケスがやってきて騒ぎ立てる。

頭上を見上げては小刻みに首を振って、

くちばしをもぐもぐとさせている。

 

ようやくカケスも去ってあたりに静けさが戻ると、

二つの黄色い瞳を一点に定めて、身を大きく乗り出した。

 

音もなく舞い降りた次の瞬間、

着地点らしき場所からドスンという鈍い音がした。

 

*グレート・グレイ・アウル=カラフトフクロウ

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危険

 

どこまでも同じような景色が続いている。

遠くまで見渡せるところもほとんどない。

おまけに地質が鉄分を含んで磁石が効かないところもある。

 

もしもこの森で道に迷ったら。

テントもなしで一夜を明かさなくてはならないとしたら。

 

無数の蚊が一晩中襲いかかってくる。 

 

 

##ムース##

夜明けのムース

夜明け前、沼地の畔でムースの訪れを待っていた。

辺り一面にはまだ新しい巨大なひづめの跡があった。

 

向こう岸の森の奥から

ひとつの黒い影が現われたかと思うと、

それははゆっくりと形を成し、

いつのまにかムースとなっていた。

 

ムースは勢いよく沼の中に飛び込んで、

頭を水の中に突っ込むと、水草をほおばり始めた。

口元から滴り落ちる水の音が、

水面を伝って朝の森にしみわたっていく。

 

水草がムースなのか、ムースが森なのか。

 

その境界はぼんやりとして溶けてしまいそうだった。

 

##クロクマ##

デテイケ

 

荷物をとりにけものみちへ出たとたん

目の前の茂みが大きく揺れて

枝をへし折るバキバキという音がした。

 

前方の岩の上に大きなクロクマが姿を現し、

こっちを見てしきりに吠え声をあげた。

 

その声は体の芯まで響いて鳥肌が立った。

 

たとえ言葉は通じなくても

「デテイケ」

と言っていることぐらいはわかる。

この作品について

 

(旧サイトに掲載時の解説より)

ここに登場するのは、著者が1999年から3年間にわたってしばしば訪れ、滞在したノースウッズと呼ばれる森に生息する動物たちです。ノースウッズとはミネソタ州北部からカナダ北極圏にかけて広がる森林湖沼地帯の呼び名です。

 

大竹英洋さんは1999年5月に自然写真家のジム・ブランデンバーグと彼の写真にも登場するオオカミに会うために、ミネソタ州北部の森をめざしました。カヤックでの8日間の旅の末、幸運にも大竹さんはジムに会うことができました。さらにジムの紹介で極地探検家ウィル・スティーガーと知りあい、彼の協力で森の中に簡素な小屋を借り、2001年12月まで何度もそこを訪れ、のべ13カ月を森のなかで暮らしました。

 

ノースウッズの森で大竹さんはたくさんの写真を撮ります。3年間(この森に)通い続けた結果として残ったのは、森や生きものたちの写真(木であり植物であり深い森の光景であり、また出会った動物や鳥など)と、実際に森に暮らし、森を歩いた体験でした。ここに発表するテキストは、カメラのシャッターを押すやりかたではない、もうひとつの方法によって大竹さんが見たものの集積です。

旧サイト「動物の森」ですべての動物を読む

http://happano.sub.jp/happano/into_the_wood/index.html

Book版​『動物の森 1999-2001』(amazon)

 
 

大竹英洋 

1975年生まれ。一橋大学社会学部卒業。1999年より北米の湖水地方「ノースウッズ」をフィールドに野生動物、旅、人々の暮らしを撮影。人間と自然とのつながりを問う作品を制作し、国内外の新聞、雑誌、写真絵本で発表している。主な写真絵本に『ノースウッズの森で』、『春をさがして カヌーの旅』、『もりはみている』など(以上、全て福音館書店)。2011年、NHKBS「ワイルドライフ」に案内人として出演。写真家を目指した経緯とノースウッズへの初めての旅を綴ったノンフィクション『そして、ぼくは旅に出た。はじまりの森 ノースウッズ』(あすなろ書房)で「第七回 梅棹忠夫・山と探検文学賞」受賞。2018年「日経ナショナルジオグラフィック写真賞 ネイチャー部門最優秀賞」受賞。2020年、撮影20年の集大成となる写真集『ノースウッズ 生命を与える大地』(クレヴィス)を出版。

www.hidehiro-otake.net

 

Facebook: https://www.facebook.com/HidehiroOtakePhotography/

Instagram: https://www.instagram.com/hidehirootake/

大竹英洋写真展「ノースウッズ 生命を与える大地」
会期:2020年11月13日(金)-11月26日(木)
時間:10:00–19:00(最終日は16時まで、入館は終了10分前まで)
会場:FUJIFILM SQUARE(フジフイルム スクエア)内、富士フイルムフォトサロン 東京 スペース2*

*詳細はこちらをご覧ください。