DISPOSABLE PEOPLE

​ディスポ人間

第30章

 

 『宿命』

 

ぼくはno.1トレインに乗ることがある

またno.3トレインに乗ることもある

車や飛行機に乗っていくこともあるし

一度か二度、船で海をわたったこともある

でもどれも結局のところ同じだ

どこかにぼくを連れていく器だから

これからもそれに乗っていくし、文句はいわない

自分の宿命にむかって進むだけだ

 

K.ラブレイス(2011年4月)

 

 

 「神が愛する、そして悪魔の面目をつぶす真実を明かす」。これがぼくがしてきたことで、これからもすることだ。やったことが記録され、分析されるのは重要なことだから。

 ガーネットはいま刑務所にいる、2回目だ。聞いたところでは、この13年間服役しているそうだ。今度の刑はレイプ、強盗、加重暴行(悪質な暴行で刑が重い)で15年。夢の中でだけ悪事を働く者もいる。起きてるときは女性に強い欲望を感じたり、オフィスの用具をちょろまかしたりするだけ。でもこいつは違う。

 刑務所行きになる4年前、ガーネットは偽のパスポートに1500米ドルで手に入れた偽ビザをもってアメリカに発とうとした。スラムでは海外に行く風に見える、最新ファッションをまとってた。2週間後、ガーネットはもどってきた。アメリカは気にくわない場所だ、と言っていたが、村の人たちは、空港で誰かにパスポート偽造でつかまるぞと言われ、キングストンのどこかに2週間、恥をかかないよう隠れていたんだと噂した。これは噂と推論にすぎないものだが。ミスター・マンがガーネットのビザに金を払ったという噂と同じだ。

 アメリカに行く18ヶ月前、ガーネットは初めて刑務所に入れられた。刑期は14ヶ月間、加重暴行によるもの。その出来事はつぎのようにみんなに知れ渡った。

 ガーネットは長年、自分のことを女たらしだと思ってきた。ぼくらがよく耳にしたのは、あいつのペニスは6ヶ月より長いということ。意味ないことではあるが、ぼくらはそう理解してきた。ガーネットの主張によれば、相手の女の経験値によって、通常1時間から1時間半は中で持ちこたえるという。バックや正常位などの普通の体位には興味がなく、トカゲ膝やローストダック、バナナの皮スタイルでやっていた。聞いてるぼくらは、その話がわかったようなふりをして、当惑しつつ笑みを浮かべていた。

 ガーネットは実際、女たらしではあった。20歳になるまでに子どもが何人かいたが、子どもを養うための金などなかった。仕事なし、車なし、なんの見込みもなし、それに加えて野心も欲もなかった。彼に関して「野心(あるいは欲)」という言葉がつかわれた唯一の機会といえば、あいつが14歳のころ、弟のトミーに夕飯を少し寄こせと頼み、「欲張り」と言われて終わったとき。

 ガーネットは賭けごとで自分と子どもの食いぶちを得ていた。当時ガーネットは気を荒だてることがよくあると言われていた。ある日賭けごとをしていて、ガーネットは金をたくさん失ってひどく気落ちした。騙された、と彼は感じた。で、ガーネットはやり返した。ひどく痛めつけた。やられたトレイバーはこめかみから血を流し、意識を失った。ガーネットが2×4用の木切れをつかったせいだ。警察は即座にガーネットを逮捕。ぼくはその日、そこにいなかったので、これは聞いた話だ。そのときすでにキングストンに住んでいた。で、ガーネットは壁の向こうに送られた。落書きもできない小さな壁に囲まれて。

 さてマイラブ、思い出してほしい。この男は弟のチビっ子トミーが死ぬのを見た人間だということ。そして弟を殺したやつが、のちにガーネットが自分の気持ちをコントロールできなくなったことと関係している、と考えられる。これが説明のいくらかになっていると、ぼくは信じている。しかしガーネットがトレイバーを床に押し倒したときより1年前、別のことが起きていた。これについては、ぼくもまだあのクソ忌々しい場所に住んでいたから、一旦を担っていた。

 それで話はミスター・マンのところにもどる。みんなが言うには、この男はガーネットのために、10年以上たってから1500米ドルでビザを買ったと。ミスター・マンはどんなやつだったか。やつは氷工場の経営者であり、多くの幸せを手にしていた、だろ?

 噂では、ミスター・マンは、チビっ子トミーの事故(なぜ何の取り調べもなかったのか)で起きた良心の呵責をしずめるために、ガーネットに自分の家の庭仕事を与えた。簡単な庭の手入れや掃除だ。この仕事は外仕事だから、家の主人と接することはないし、家の中に入る必要もない。必要な用具がある場合も、家の裏口に行って手伝いの女に頼めばいい。つまりガーネットは家に入る必要性はなかったということ。でもやつは入った。ガーネットの主張では、最初、呼んでも手伝いの女が応えなかったので、彼女を探しに中に入った。そしてちょうど、ミスター・マンが食卓にいて、一人で夕食をたべているのを目にした。豪華な食卓だった。自分は家に帰って自らのつばを飲み込むしかないときに、金持ちの男がロブスターをたまの贅沢という風でもなく、無作法にガツガツ食っているのを見ることがどれだけ耐えがたいか想像に難くない。そこにいる男がどんだけの幸福感を味わっているか、目にすることは辛いだろうな。この男の会社のトラックが、バックして自分の弟を轢き殺した。ミスター・マンの食事風景を見て、そこに立っていることすら耐え難く、釘付け状態になったのは疑う余地がない。手伝いの女がやって来て声をかけ、ガーネットを道具置き場に案内したので、それ以上の苦痛を免れ、正気を取り戻したと言われている。

 この時点で、ぼくら近所の子どもたちは、ガーネットが家に帰って何か計画を練ったと理解した。でもこの計画が何であれ、ムガベ内閣がする決定のように、手の込んだものだった。なぜなら最後までうまく遂行されなかったからだ。起きたのは次のようなこと。

 次の土曜日、ガーネットはいつものように仕事場まで出向き、贅沢三昧の家の周辺を掃除し、そして再び、家の中に入る決心をした。今回は、ミスター・マンが家にいない時間を選んだ。裏口から中に入り、手伝いの女があたりにいないのを確認し、ゆっくりとミスター・マンの寝室に入っていった。次にやったのは馬鹿げた行動で、それはつまり「友だちを川に突き落とし、なんてことするんだ、となって川に引っ張り込まれる」たぐいのことをはるかに超えたものだった。こんな行動からはたいした結果は生まれないのだから。ガーネットのやったことは全然ちがうことだった。ガーネットは部屋に行って、金と宝石を盗んだ。どっちもたくさん。それを手伝いの女が見ていた。

 そこで村の中には、ガーネットと手伝いの女はどちらも貧しい生まれで、親戚関係にあったので、女はそのことを口に出さなかった、と言う者がいた。しかし、ぼくらは子どもではあったが、気づかれずに済むことではないと知っていた。ある者はいつもツケを払うことになり、それはガーネットか手伝いの女かのいずれかになるはず。それはガーネットだった。

 マイラブ、次にくるのはひどく残酷なことだから、話が終わるまで、きみは目と耳をおおっていた方がいい。いつ目を開けたらいいか、教えるからね。いいかい。じゃ目を閉じて。

 じゃあ早いとこ終わらせるよ。ガーネットはミスター・マンが家にもどる前にそこを出た。手伝いの女はミスター・マンに起きたことを報告したはずだ。ミスター・マンはその週の間、ガーネットのところに何も言ってよこさなかった。ガーネットは盗みはバレてないと思ったことだろう。その週の土曜日、ガーネットは仕事に行った(自分は何もしていないという証拠として)。やつが門をくぐって鍵をかけ、向き直ったとき、「ハピーバースデー」サプライズのような歓迎を受けたわけではない。友だちのオーラルが自分の新車BMWでスピードをあげて、角で追い越しをかけ、反対方向からやって来るトラックと衝突した(バイバイ、オーラル)ときのようなサプライズだった。どこからともなく、氷工場の労働者二人の手が伸びて、ガーネットは豪雨に見舞われたように強打を浴びた。見舞われたのは労働者二人の手だけではなかった。どれも救われないが、同じ程度の効果がある。

 

・行なわれている殴打を終わらせるための一発

・奴隷が逃げようとして、見せしめのためにやられる一撃

・警視正は飲み友だちだから、好きなだけ殴っていいパンチング

 

 「自分らは石を投げつけただけなのに、それ以上のミサイルで返してきた」的なことを言う人たちがいるかもしれない。でもぼくは、何が公平で何が抑止力になるかの裁定をするタイプではない。何が起きたかを言うだけだ。

 しかしこんな風な仕返し

 

・女の子がボーイフレンドの顔のおできを公衆の面前でつぶす

・男が小便をするために道の脇に車をとめる

・行商人が強いぼっ起を促すための調合剤を売る(強烈回帰、硬ダチ、球根、アイルランドの苔など)

・ダンスホールがティーンエイジャーの乗ったスクールバスに向けてアダルト向け音楽の爆音を発する

 

は普通のもので、盗人に対しては毎日のように行なわれていること(どっちかと言えば、ガーネットはヤギ泥棒やゲイじゃなくて、まだ幸運だった。そうであれば、暴徒が鉈を手にやって来て参戦するだろうから)。しかしながら、常識から外れるというのは、次のようなこと。

 ミスター・マンは裏庭に2匹の犬を飼っていた。ドーベルマン・ピンシェルだった。使用人たちがガーネットから手を離すと、ミスター・マンが(伝えられるところによれば)犬を連れてきてガーネットに向けて放った(あとになって警官が確認したところでは、犬は誤って放たれたということ)。それでドーベルマンはガーネットを無慈悲に襲った。

 [ 脱線:この場合、2匹の犬を非難できるだろうか? 犬というものがどう扱われているか。「攻撃しろ!」「走って逃げろ!」「かあさんを助けろ」「あの犬を追い出せ!」はよくあること。こういうことを期待され、餌も自分で手に入れろと。犬というのはいつも酷い仕打ちを受けていることがわかる。それに犬はドーベルマン・ピンシェルで、かみつくのが性分。それに彼らは攻撃して殺す訓練を受けていた。マリファナ茶をよく与えられてもいた(恐ろしい副作用のため、自分の主人を襲うこともあった。そのせいで、ここの犬は普段縛りつけられている)。なので犬たちがガーネットを攻撃したことは、責められないことだ。2、3年前に起きた道を歩いていて雑種犬に襲われたある男の場合と、このことを比べてみよう。翌日、男はシーツをもって戻ってきて、犬が追いはじめるとシーツを投げて犬のからだをおおい、つかまえて激しくかみついた、と言われている。その場合は犬の責任で、かまれて当然と誰もが言うだろう(この男の変態さを言いたてる人もいるだろうけど、ぼくらジャマイカ人は、毎度あることとは思わないが、起きたことは理解できる)。

 もう目を開けてもいいよ、マイラブ。

 というわけで、今ぼくが言った通りのことが起きた。もっと疑い深い人には、本当に起きたことだという証拠を見せよう。何が起きたのか耳にしたとき、ぼくらはミスター・マンと氷工場に対して激しい抗議行動を起こした。ミスター・マンのところから氷を買わないよう、地域の人々を扇動したのだ。テレビ局や新聞社もやって来て、起きたことの流布情報版はJBC(ジャマイカ放送局)やデイリー・グリーナーにちゃんと記録された。流布情報版と言っているのは、ちゃんとした捜査の結果によるものではないから。理由は(前にも言ったように)ミスター・マンの財布の中には、捜査官だとか、巡査部長だとか、判事だとかの肩書きの男たちがうようよしているからだ。

 これはまた、ミスター・マンが自分のやましさをやわらげようとして、数年後にガーネットに1500米ドルのビザを買ってやった理由だ、とみんなが思っていた。

 「哀れな犬をかわいそうに思って寄っていったら、その犬は振り向いておまえにかみつく」 こういうことわざが当時あった(また犬を借り出してゴメン)。ガーネットが哀れにも尻を引きずって家に向かっていたとき、路地で最初に出会ったのがビリーだった、と言われている。ビリーは「11番マンゴー(マンゴーの名前)」でマンゴーを食べていた。ビリーはガーネットを見て驚いて駆け寄り、手を差し伸べた。しかしその手がガーネットに触れたとき、人生最大級の怒りを帯びた一撃をうけた。

 なぜビリーはガーネットを気の毒に思ったのか。ガーネットがどんな風に路地を歩いてきたか、ぼく流の表現で描写する。それはこんな風だった。

 あー、もー、あー、もー、あーーー!!! クソッタッレーー! うぁーーーー、かみさまー、うぁーーーー!!! かみさまー、ごじひをー、かみさまー、あああー、ううぁーー、かみさまーー!!! バカッタレークソッタレー! かみさんしんだかー、かみさんしんだかー、しんだんだ、しんだんだ、しんだんだー! みろよ血ぃだぁーーーー! かみさまー、かみさまー、たすけてくれーかみさまー!!!

 しかし彼は回復した。(少なくとも肉体的に)傷が癒えたあと、ガーネットは3、4キロ先のミスター・マンの家まで歩いていって、道路の向こう側から家を見ていた。ぼくは最初それを見に行ったりしなかったが、他の見に行ったいとこたちが言うには、目が「きわめつけ超極悪」なものだったと。でもこれは漫画や小説じゃない、と彼らもわかっていた。ガーネットの心はもう、「きみがぼくに笑いかけたから、お返しに子どもを授けようか?」というところにはない、という日々だったのだ。もう笑わない、人の話を聞かない、返事をしない人間になっていたということ。女の子とやったりもしない。もうやらない。いつも気が抜けたチビクソ野郎で、頭が一つのことでぐるぐる回り、干し草の山から干し草を見つけられない子のようになっていた。でもある意味、ガーネットはこのとき、死海より濃密な状態とも言えた。ほっぽりっ放しの不潔の極み。出産後のママが何ヶ月か放置するうちに手に負えなくなった三つ編みコーンロー以上に、髪は溶けた黒いろうそくの塊みたいになっていた。そしてただそこに突っ立っていた。

 もちろんぼくらは、人は戦争にそれぞれの理由で出向くことを知ってる。本で読んだ古代ギリシア人は、連れ去られた美しい女のために戦争に行く。そしてユダヤ人とアラブ人は、彼らが神聖だと思う土地やものを求めて出ていく。これについて、歴史によれば、アイルランド人は「十分の一税戦争」のとき、一頭のクソ牛のために戦争に行ったというが、それはきっと若くて生きのいい雌牛だったんだろう。理由というのはいくらでもある。結果もしばしば同様だ。命と資産の無駄遣い、血なまぐさくて残酷なもの。戦闘が素材を提供し、伝説はそこから生まれる。栄光の草原や血の川で戦うのだ。とはいえ、本やテレビで見た戦争の脅威を総動員させても、あの日、初めて、自分で行って確かめた、ガーネットの目の奥にあるものより恐ろしいものはなかった。それは彼の内で沸き起こる戦争のようなものを見て、震えがきたからだ。冷たく沈黙しているが、あいつの内側で宇宙戦争が荒れ狂い、悪魔の軍隊、悪霊の集団のようなパワーを放っていた。来る日も来る日も、ただそこに突っ立ち、死そのもののように、沈黙して冷たく静まり返っていた。両手はいつも背後に置かれていた。そこでただ待っていた。

 しかしミスター・マンは厳重にガードされていた。一人でいるところは見られなかった。目にされること自体なかった。でも警察官が何度か、ぼくらのところの昔人間たちと、ガーネットのことを話すためにやって来た。昔人間たちにガーネットと話すよう説得しようにも、ガーネットは、警官自身が話しかけられるような人間ではなくなっていたのだ。誰一人、話しかけられなかった。

 1年たった頃、ガーネットは大人になり、最初の息子が生まれた。みんなはこの子はパパの怒りを、お腹の中で感じていたのではないかと言う。生まれる前の4ヶ月間、この子は戦う相手がいないことにいらついて、ママのお腹を蹴りつづけていたからだ。お腹から出てきたものは、母親しか可愛いと思えないような貧相で、邪悪な顔の赤んぼうだった。しかし実際のところ、母親にも可愛くは見えなかった。

 締めくくろう。ガーネットは毒の泉から水を飲み、それに染まっていた。息子も同様に染まっていた。この息子を少しの間、観察してみよう。どんな子なのか、見てみよう。まだこの子の何も見てないからだ。