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Photo by rp_photo(CC BY-NC-ND 2.0)

年ごろ

ドニ·エモリン

 七歳の誕生日、父はぼくを書斎に呼んでこう言った。「これから言うことをよくお聞き。」

 父は話し始めた。「今日は七回目の誕生日だな。おまえにいよいよその年が来たってことだ。生きるということを教えよう。おまえは今あることに取り憑かれ、悩まされているだろ? そういう年だからな。いいや、隠さなくっていいんだよ、誰でもそうなんだから、この年齢では。恥ずかしいことじゃない。実はわたしからプレゼントがある、彼女を紹介しよう。だけど彼女を怖がらせるな、自分の衝動を抑えるようにな。時間はかかるかもしれないが、すべてが学べる、あっちの領域のこともな。そうそう、何であれ、このことを母さんには言うな。母さんにはとうてい理解できないことだからな。おまえと父さんだけの秘密だ。」

 

 最初のとき、父さんはぼくといっしょに来てくれた。離れたところから、あれがそうだ、と彼女を指し、さっとぼくらを引き合わせると、ぼくらを残して行ってしまった。

 

 ぼくは毎日のように彼女のもとを訪ねた。いつも村はずれにある彼女の家で会うようにしていた。最初、ぼくは怖じ気づいていた。彼女に近寄ることも、見つめることもできなかった。ちらっと盗み見するのが関の山。彼女のほうはすべて気づいていながら、ばかにしたりはしなかった。

 二、三日後、ぼくは少し自信が出てきた。彼女はすべて承諾しているように見えたから。つまり、彼女はぼくが学ぶのを助けるためにそこにいたんだ。父さんは僕に彼女をくれた、ぼくへのプレゼントだった。彼女は草の上にからだを伸ばし、じっと動かなかった。ぼくは彼女のそばに跪き、指先で彼女を心を込めてなでた。父さんのアドヴァイスを覚えていたんだ。それから今度は手の平で彼女を愛撫した。彼女は何も言わなかったけれど、ぼくの行為を許してくれていることは確かだった。何回か、彼女が喜びのため息をつくのを聞いたような気さえした。

 父さんは何ひとつぼくに聞くことはなかった。父さんの思慮深さは見事だった。いつも父さんはぼくに優しく接してくれた。父さんと秘密を分かち合うことの快感にぼくは酔っていた。

 

 ある日のこと、ぼくは父さんと母さんの言い争う声を聞いた。母さんに気づかれたのだ。どうやって母さんが気づいたのかわからない。もっとよく聞こうと近づいたら、母さんの言っていることがはっきりと聞こえてきた。母さんは父さんに怒鳴っていた。「あんなことをよくもまあ、あなたという人は。まだ小さな子があんなこと教えられて、どれだけ困惑していることか。年端のいかない子に、なんて忌まわしいことを、下劣なことを! 恥ずかしいと思わないの?! そういうことをやるには十年、二十年早いのよ。あの子はまだほんの子供なんだから。」それで終わりだった。父さんはひとことも言葉を返さなかった。母さんは二度とこのことに触れなかった。だけどぼくにはわかる。その日以来、父さんと母さんの関係は壊れてしまった。

 ぼくの方はといえば、もっと大胆になっていった。最初に彼女の前で裸になったときは、何もできなかったけれど。急ぐあまりすべてを水の泡にしたくなかった。心配だったのだ。

 次の日、ぼくは服を脱ぐと、優しく体を彼女の上にあずけた。彼女をしっかりと抱きしめた。生まれて初めての感覚だった。あとはじっと彼女に浸っていたかった。なんてすごいプレゼントをくれたんだろう、父さんは。

 

 その時から、ぼくの人生は変わった。父さんがぼくに言っていたように、ぼくは男になったんだ。彼女とのたとえようのない交わりに、ぼくは多くの時間を裂いた。一度など、突然の雨さえなければ、いつまでもいつまでも、草地に横たわり、まどろみの中で優しく互いの体を絡み合わせていたことだろう。

 ところで、母さんとぼくは新たな関係を築き始めていた。母さんはもはや見知らぬ人間だった。ぼくの幸せを母さんは妬んでいるのではないだろうか。ときに黙ってぼくに目を向けたけれど、その顔は苦痛でゆがんでいた。ぼくの頭を両手で挟んで胸に引き寄せ、「可哀想な子、可哀想なわたしの息子」とつぶやくこともあった。

 ぼくは動揺して身を離した。なんで母さんに干渉されなくちゃいけないんだ。母さんにぼくらの関係の何がわかる。

 父さんが彼女をぼくにくれた、父さんからの贈りものなんだ。彼女はぼくの人生にずっと付き添ってくれるだろう、ぼくがちゃんとした男になれるよう。母さんはぼくに起きたこの変化を決して理解することはできないだろう。

 

 誰であれ、ぼくから彼女を取り上げることはできない。彼女はぼくと出会い、ぼくを一人にする運命にあった。毎日、村はずれにある墓地の草地で、体を広げて彼女は待っていた。無垢で慈愛あふれる一糸まとわぬ姿で。彼女、それはぼくの墓石だった。

 

ドニ·エモリン:1956年パリ近郊に生まれる。短編、エッセイ、詩、脚本の作家。ドニの作品はフランス国内の他、ベルギー、インド、日本、ルクセンブルク、ルーマニア、アメリカで出版されている。フランス、ロシアではドニの脚本による演劇が上演された。東欧に強い関心を持ち、作家としてそれらの国々との関わりもある。

2004年, Féile Filíochta International competition で最初の詩の賞を受ける。ドニの詩集は、 Pphoo (イ ン ド) 、 Blue Beat Jacket (日本)、 Snow Monkey、 Cokefishing、 Be Which Magazine (ア メ リ カ)な ど か ら 出版 さ れ て い る。2015年、ナジ・ナーマン基金より「Honorary Prize for Complete Works」を受賞。