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ウィリアム・J・ロング著『おかしなおかしな森の仲間たち』より 訳:だいこくかずえ

黒衣のエンターテイナー(2)

ワシいじめ

 

 次にわたしが発見したのは、かの威厳あるカラスたちがいつも、ほかの鳥や動物をからかうことばかり考えていることだ。中でも昼に居眠りしているフクロウを見つければ、必ずリクリエーションにとりかかる。フクロウの寝込みを襲い、カアカアと鳴きたて、平穏をぶちこわすやかましさで1羽、また1羽と、フクロウのあとを追いまわし、尽きぬ遊びに興じている。わたしはカラスたちがフクロウに、あるいはタカやキツネにうるさくつきまとうのを何回も見た。一度、彼らが小さな鳥たちのくちばしにかかって受けた侮辱を、白頭ワシに仕返しをすることで清算しているのを見たことがある。それはカラスたちのまたとない饗宴となった。あれほど楽しそうなカラスたちをその後も見たことはなく、ワシがあれほど無能で、怒り狂っているのも見たことがない。

 

 それは真冬のことで、海の近くを流れる川の岸辺でのこと。そのワシは死んだ魚を見つけて地面に降りてきた。カラスたちは無頓着そうにそのあたりで並んでいた。でもわたしが思うに、カラスたちはワシを、無防備なところ(地面)へと引き寄せていたのではないか。彼らがスズメやコマドリに追い詰められるときと同じだ。小さな鳥の集団が、1羽のカラスをしつこく追いまわすのを見たことがあるだろうか? 空中でカラスをとらえ、ゆっくりと飛ぶそのまわりを旋回し、地面まで追い詰めて囲いこみ、カラスのまわりに陣どると、これまでに盗んでいった巣のことを言いたて、ガミガミと叱りつけるのだ。怒りをぶつけてくる鳥たちの円陣の中で、そのカラスはちぢこまり、居ても立っても居られないが、動こうにもまた雷が落ちてきそうでそれもできないでいた。ワシの話に戻ると、そのワシは不安げに頭をかしげ、怒りに満ちた目を光らせつつも、力なく岸辺に立っていた。そのまわりには、歓喜に沸く50羽のカラスが取り囲んでいる。用心深く口をとざす者、やじの声をあげる者。その背後では、黒々とした羽の一癖ありそうな老ガラスが岩の上にすわり、事の成りゆきに目を光らせている。「おまえらの誰につかみかかってやろうか」とワシ。大きなかぎ爪を動かしながら、「この爪をおまえらの黒い羽につっこんでやろうか。ひとたび空に舞い上がれば、そこで俺様のかぎ爪で、、、」

 

 突然ワシは身をかがめると飛びあがり、大きな羽をひろげてバサバサと鳴らした。「カアカアとこいつに言ってやれ!」 岩の上の老ガラスがたきつけ、自ら宙に舞い上がると、ワシに突進し、首元の白い羽を引き抜いた。あっという間に、黒い暴徒たちはワシを空中で取り囲み、頭をつつき、飛ぶのを邪魔し、耳をつんざく鳴き声で責めたてた。大音響の中でワシは耐え、そして地面に降りた途端、カラスたちのやじの嵐にぐるりと取り囲まれた。このワシはどんなカラスと比べても、千倍は強力で危険な鳥だ。それに比べ、カラスたちは小さいが敏捷だ。カラスたちもそれを知っているし、ワシもよくわかっている。これが悲劇の場面で起きる喜劇なのだ。

 

 わたしが見ていたとき、2回、そのワシは逃げようとして、2回ともカラスたちに地面まで追い詰められた。そこはワシが弱さを見せる場所なのだ。そしてワシは空に舞い戻ることをあきらめ、堂々とふるまうことをあきらめ、小うるさいやつらが自分をこうして疲れさせる、とでもいうように、半分目をとじた。しかし細めたまぶたの下には、どう猛に光る目があり、それがいたぶるカラスたちに距離をとらせる。するとそこに、銃を手にした男がぶらぶらと登場し、せっかくの場面を台無しにしてしまった。

 

 ある日のこと、カラスの群れがフクロウを前に声をからしているところを見て、面白いアイディアが浮かんだ。物置にボロボロになったぬいぐるみのフクロウがあって、家ではバンズバイと呼ばれていた。何年ものあいだ、ほこりをかぶったままだった。オカルト的な理由でもあるのか、ぬいぐるみの鳥をゴミに捨てない習慣があった。見るに耐えないほどになれば、物置か屋根裏にもっていって放置する。わたしが物置からバンスバイを救い出したとき、こうした見捨てられた状態にいた。ヘアピンを見つけてきて、ぬいぐるみのフクロウをつつきまわし、本物らしく見えるようにした。ガラスの目をつけ、でも一つしかなかったので、もう片方は変な風にウィンクしている見映えになった。そしてフクロウをカラスが来る森の木にとまらせた。わたしの呼びかけでやって来るカラスたちに、いじめさせようという魂胆だ。

 

 それ以来、カラスたちが遊んでいる声を聞きつけると、わたしはバンスバイをつかってカラスたちに騒ぎを起こさせた。カラスたちはあらゆる方向から、2羽3羽ずつやって来ると、森の木々を埋めつくした。一斉に大声で鳴きわめき、互いに何か言い合い、じっと木にとどまるフクロウに非難の声を浴びせた。すると向こう見ずなカラスが、フクロウのすぐそばを猛スピードで通りすぎていった。その羽でフクロウがパンチをくらい(たまたまぶつかったのだろう)、バンズバイはバランスを崩した。バンズバイはいつだって間抜けな存在だが、パンチをくらって、片羽をバタつかせ、片足を宙に浮かせて、アホの見本のような姿になった。でもカラスたちは、ついにやっつけたと思っている風で、大声でどやすのをやめた。

エンターテイナー

 

 別の日、カラスたちがカアカアと騒ぎ、わたしの呼びかけを無視して飛んでいったとき、こっそりそのあとを追い、 高原までやって来た。わたしが着くと、20羽くらいのカラスが、地面の上で何かに熱中していた。群れの中心に小さなカラスがいて、飛べないのか飛ぼうとしないのか、奇妙なふるまいを見せていた。

 

 ときどきそのカラスが頭を垂らすと、取り巻きのカラスたちは次の動きをじっと見守った。まわりのカラスたちが見守る中、そのカラスは首をのばしてクゥワー、クゥワーーーと奇妙な声をあげた。まるで雄鶏がタカを見つけたときのような、聞いたことのない声だった。すぐに輪の中の1羽がサッと弱っているように見えるそのカラスに近寄り、くちばしで肩から尻尾までなでていき、反対側も同じようになでていった。

 

 このなでる行為(それが何を意味するか別にして)は数秒間つづき、その間声はまったく聞こえなかった。そしてなでていたカラスはヒマラヤスギの茂みに飛んでいき、そこで大声で演説をはじめた。頭を振り、枝を踏みならしながらペチャクチャとやっていた。ほかのカラスたちは耳を澄まして聞いていたと思ったら、カアカアと賛同か反対でもしているような声をあげ、草原を荒々しく飛びまわった。少しの間騒々しい声をあげながら、輪を描いて飛んでいたかと思うと、またさっきのカラスのところに戻ってきて取り囲み、ペチャクチャをやめ、またあのなでる行為(あるいは探っているのか)を始めた。

 

 カラス流の喜劇でも演じているのか、それよりもっと意味深いものなのか、わたしには言えない。カラスというのは、仲間のカラスが傷を負ったとき、このような意味不明の騒ぎをおこしたりはしない。以前に羽を傷めたのか、死にそうなカラスのところに仲間が集まっているのを見たときは、静かに木の上で見ている者がいる一方で、そばまで行ってそのカラスが何を望んでいるのか探っているように見える者が1、2羽いた。

 

 地面にいた小さなカラスが、ほかのカラスといっしょに飛び去っていったという事実が、この一幕の意味を示唆していた。このとき以外にも、これに似た行動(普通ではない鳴き声を出している者に、まわりのカラスが沈黙と大騒ぎを交互に繰り返す)をわたしは何度も見たことがある。飼いならされたカラスを見れば、彼らが他の鳥や生きものの真似をする能力があることはよくわかる。朝から晩まで聞いていると、カラスたちは低い笛のような声から吠えるようなしわがれ声まで、多様な鳴き方ができる。森の中で誰かがみごとな鳴き真似を見せたとき、取り囲む仲間たちから喝采を受けているような場面に出くわしたこともある。

 

 それとは別に、北部の氷の張った湖の上で、高原のカラスたちが見せたような行為を、オオカミの群れがするのを目にしたことがある。このオオカミたちは遊んでいたり、からかっていたりしているのではなかった。群れの中の1匹が銃で撃たれていた。銃弾は遠く離れた見えないところから発射され、風による抵抗で銃声はかき消され、傷ついたオオカミは自分に何が起きたのかわからない様子だった。そのオオカミが沈黙すると、群れのオオカミたちはじっと見つめ、同じように沈黙した。撃たれたオオカミが頭をあげてすすり泣くと(数回そのようにした)、すぐに1、2匹がそばに寄っていき、からだを鼻でなでまわした。そしてそこにいたオオカミ全員が、鼻面を空にむけて走りまわり、荒々しい遠吠えを放った。

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