Elephant Stories

サンクチュアリに住むゾウたちの物語

<コラム>

 

世話係ジョアンナの事故死とウィンキーのその後

サンクチュアリーで世話係のリーダー的存在だったジョアンナ・バークが、不慮の事故で2006年7月21日に亡くなりました。サンクチュアリーでゾウたちの世話をするようになってから、8年の月日がたっていました。その朝、いつものように敷地内をまわっているとき、アジアゾウのウィンキーが突然、ジョアンナを襲うという悲劇が起きたのです。

​ウィンキーとジョアンナ

(Trunklines 2006年秋より)

 

事故のあった日の朝、ジョアンナとスコット(サンクチュアリーの創設者の一人)は、いつものようにゾウたちに水を配ったり、一頭ずつ、目で健康チェックをしていました。ウィンキーの様子を見ているとき、スコットはウィンキーの右まぶたが、目が見えないくらいまで腫れているのに気づきます。前の晩に虫に刺されたようで、その数週間前、アジアゾウ居住区のタラも同じ症状を見せていました。スコットはウィンキーに近寄り、まぶたを観察しました。手で触れると、そこが敏感になっているようでした。

 

スコットの診察が終わると、ジョアンナがウィンキーに水をやりました。ウィンキーはおとなしくしていました。ジョアンナはウィンキーの右目を見ようと、そちら側にまわりました。触ろうとしたわけではありません。突然ウィンキーが向きを変えると、ジョアンナの胸と顔を強く打ちました。ジョアンナは倒れ、すぐにウィンキーがその上を踏みつけました。仲裁をしようとしたスコットも怪我を負いました。地元のモーリー病院にスコットは運ばれ、骨折の治療を受けました。 

 

テネシー野生生物資源局、ルイス・カントリー・シェリフ事業部、米国農務省、テネシー労働者・従業員局、労働安全衛生局がやって来て、事故の調査をそれぞれ行ないました。その結果、各機関は、サンクチュアリーがすべての規制事項に合致していると判定しました。ジョアンナの死は事故であったことが承認されます。

 

サンクチュアリーのゾウの扱いに関する哲学と、かねてからのジョアンナの信念に従って、このことでウィンキーに罰が下されることはありませんでした。ウィンキーは他者に危害を加えないよう、管理をされることになります。ウィンキーの症状は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に合致していました。このところ、心的外傷の著名な専門家であるゲイ・ブラッドショーが、サンクチュアリーで、ゾウたちの心的外傷について理解を深めようと、研究を始めたところでした。ブラッドショーは、幼い頃に虐待や心的外傷を受けたゾウは、PTSDに苦しんでいると考えていました。

 

ジョアンナの葬儀は、7月26日、メリウェザー・ルイス公園での「ジョアンナの生涯を称える会」のあと、ホーヘンウォルドで行なわれました。メリウェザー・ルイス公園はジョアンナがよくハイキングをして、自然を楽しんでいた場所です。ジョアンナの両親であるポールとキャロル、そして兄のマークが、「サンクチュアリーの地に埋めてほしい」というジョアンナのかねてからの願いを受けて、私心を捨ててそれに従いました。ジョアンナの家族は、ここで働く幸せを彼女に与えてくれたことで、キャロルとスコットに感謝の言葉を送りました。

餌や水やりをするジョアンナ

(ELENOTE 2006.7.21より)

 

ジョアンナは1998年8月、サンクチュアリーでインターンを始めました。実習生をしていたある日、ジョアンナは夢を見ました。動物の世話をすることなど考えてもいなかった3年ほど前、ナッシュビル動物園を訪れたときのことを、夢で思い出したのです。一頭のゾウが水浴びしているのを見て、畏怖の念を覚えたことがジョアンナの記憶によみがえりました。その夢のせいで、真夜中に目覚めたジョアンナは、動物園に行ったとき撮った写真を探しまわります。驚いたことに、ジョアンナが探していた写真は、ナッシュビル動物園でスコットとキャロルがタラを水浴びさせていたときのものでした。二人はサンクチュアリーを創設する前、ゾウたちが暮らす場所を求めてあちこちを探索しました。その旅の最後の訪問地がこの動物園だったのです。

 

ジョアンナはニューイングラド地方出身で、アパラチア山脈の学校で教えるために南部にやって来ました。その後、大学院で組織心理学を研究しようとナッシュビルに移りました。課程を終える頃、ジョアンナは研究課題に心を傾けられないことに気づきます。心は動物に向かっていました。ジョアンナは学校を離れることを決め、野外で経験を積む方法を探し始めました。ジョアンナはサンクチュアリーにインターシップの申請をします。そして自分のような人間が必要とされる場所で、経験を積む機会を得ることができました。

 

世話係のリーダーは何をするのか、と訊かれてジョアンナはこう答えています。「気づいたことは何であれ、そしてさらにもっと」 彼女の責任範囲は、ゾウたちの日々の世話と仲間の世話係やボランティアの人々の指揮、監督です。サンクチュアリーでのジョアンナはゾウの世話だけでなく、彼女がここに来ることになった要因であるインターンのプログラムを編成することでした。

 

ジョアンナにとってサンクチュアリーで最もやりがいがあったのは、ゾウたちが関係性を積み上げていき、互いを慰め合い、一つになっていくところを観察することでした。サンクチュアリーでその過程を観察し、それを助ける環境づくりを手助けすることは、何にも増して最高の仕事でした。ジョアンナは次のようによく語っていました。「進歩的な哲学のある場所で働けば、すべてがいつも前進し、人としても世話係としても、成長が停滞することがありません」

 

ジョアンナの両親は、事故のあとに送られてきた寄付金はすべてサンクチュアリーのために使ってほしい、と申し出ました。

ジョアンナとデリ

2007年4月21日:サンクチュアリーのスタッフの言葉

 

9ヶ月が過ぎて、なおサンクチュアリーのスタッフはジョアンナの死をうまく受けとめることができないでいます。これはわたしたちが体験したことの否定ではありません。誰もが、ジョアンナはもういない、ということを充分理解しています。でも彼女の精神はとても強く残されているのです。まるで彼女の肉体のみが、この地球から去ったような気分です。ジョアンナの精神はここに残り、わたしたちに深く語りかけます。彼女との新たな関係をつくるよう働きかけてきます。

ナマステ、ジョアンナ!

 

 

親愛なるサンクチュアリーのスタッフ、支援者たちへ(ジョアンナの家族からの手紙)

 

キャロルとマーク(母、兄)とわたし(父)は、2ヶ月前にジョアンナを失って以来、みなさんがわたしたちのことを心にとめ、祈ってくださったことに感謝したいと思います。あなたがたの祈りと思いの力、わたしたちの信頼の気持ち、ジョアンナのしてきたことについての私たちの知識が、この苦しい時期を耐えられるものにしています。

 

みなさんが送ってくださった賛辞やメールの数々、そしてカードが、わたしたちの大事な家族の一員をより深く理解する助けになりました。あなたがたの心動かす言葉の一つ一つが、わたしたちがあの子の死を受けとめようとするとき、その生を祝う根拠となりました。 

 

長男を亡くしたキャロルの友人が、悲しみの波につづく喜びの波、という心の体験をしていました。わたしたちはそこにある真実と、彼女の言葉の英知を理解し始めています。わたしたちは悲しみの中で、いつか楽しいときがはじまるという知識によって、心救われています。

 

わたしたちの可愛いジョアンナを誇りに思い、また感謝もしています。そしてここにいる美しい生きものを助けるという、ジョアンナの希望を共有するみなさんを誇りに思い、感謝しています。

 

ゾウたちの、そして神の生きものたちの尊厳と闘う決意をいま新たにしているみなさん、どうぞあなたがたの祈りの中に、わたしたち家族をいつまでも置いてください。

 

たくさんの平和と愛を

 

ポール、キャロル&マーク・バーク

2006年9月13日 マサチューセッツ州マンスフィールド

 

 

 

Trunklines 2006年秋号より [ 巻頭の辞 ]

 

キャロルとスコット(サンクチュアリーの創設者)の言葉

 

わたしたちの人生では、とつぜんの衝撃的な出来事で、足元の大地がくずれおち、自分がそこに倒れこむように感じることがあります。わたしたちの愛するゾウの中の一頭、ウィンキーによって、ジョアンナ・バークが殺されたことは、まさにそれに当たります。このような悲劇に耐えられる者はありませんが、時間はとどまってはくれません。わたしたちは悲しみを通り抜け、日々の暮らしに慰めを見つけるよう背中を押されます。なぜ耐えがたさと辛さばかりがわたしたちを襲うのか自問する中で、受諾によって得られるものがあることに気づきます。

 

わたしたちは、愛する者の手によって別の愛する者を失うという、幾重にも重なる悲しみと向き合わねばなりません。ゾウたちにとって安全で健康に暮らせる安息の地をつくるというサンクチュアリーのミッションは、社会に理解されるようになりました。しかし今、さらなる挑戦が、ゾウたちを、そして同様に世話係たちの安全をもっと確実なものにしなければならないという使命がわたしたちを待ち受けています。

 

問題の在りかを特定することは、解決における最初のステップです。心的外傷後ストレス障害について、わたしたちは2年間議論を重ねてきました。サンクチュアリーにいるウィンキー、フローラを含む何頭かのゾウが、この障害に耐えています。それでもわたしたちの目の前で、このようなことが起きたことは、現実とは思えません。友人であり、仕事仲間である人間を失い、彼女の死によって、わたしたちは取り残されています。ウィンキーはこの障害から守られなくてはいけません。わたしたちはゾウたちのために、彼らが適切な世話を受け、治癒のために愛を注がれることで、解決されるよう努力する必要があります。すべては、このような事故が二度と起こらないために道を見つけることです。

 

わたしたちはジョアンナの両親、ポールとキャロルに、そして兄のマーク・バークに深い感謝を送ります。彼らは深い悲しみの中で、わたしたちに愛と支援を送ってくれました。ジョアンナの家族は、彼女のゾウを助けたいという使命感を支持し、またサンクチュアリーやウィンキーに対して悪感情を表すことなく、ジョアンナを偲んでいます。ジョアンナの友人たちも家族も、ゾウを世話することに彼女が情熱を傾けていたことを深く理解しています。 

 

ジョアンナの情熱に敬意を、そして彼女を誇りに感じています。

キャロルとスコット