はじめに

20世紀に活躍したアメリカの作曲家たちをインタビューで紹介しよう、というプロジェクトを思いついたのは、2018年3月のことだった。きっかけはレジーヌ・クレスパンというフランスのオペラ歌手の自伝を読んだこと。その自伝で彼女のパーソナリティを知って魅力を感じ、グーグルで名前を検索してみた。検索結果の中に「Regine Crespin Interview with Bruce Duffie」というタイトルのものがあり、そのページに行ってみた。

 

そこはブルース・ダフィーという人のサイトだった。シカゴのクラシック音楽専門のラジオ局で、長くブロードキャスターをつとめてきた人で、そのページは、レジーヌ・クリスパンにブルースがインタビューしたときのものだった。自伝で読んだときの彼女が、インタビューでも生き生きと立ち現れ感激した。インタビューがあまりに素晴らしかったので、目次を見て他の音楽家のインタビューも読んでみた。

 

これが、、、、どれも最高に刺激的で、面白かった。未知の音楽家のものでも、面白さは変わらなかった。そしてこの面白さの秘密は、インタビュアーのブルースに負っているのかもしれない、と思うようになった。インタビューはカンバセーションであり、インタビューされる側のユニークさだけでは成り立たない。どんな興味の持ち方で、インタビュイー(インタビューされる人)にアプローチするのか。それによって答えはまったく変わってくる。

 

ブルースのサイトには数えきれないほどの音楽家のインタビューが載っていて、一つ一つの長さもかなり長かった。日本語にして20000字(400字詰原稿用紙50枚)前後というのはざらで、それ以上のものもかなりあった。元がラジオのインタビューということもあるが、ウェブでこれほど長い記事を載せるのは、そう多くはない。じっくり、あるいはとことん話を聞いている、その長さにも魅力を感じた。

 

ブルースにサイトの感想をメールで送り、やりとりが始まった。そしてこの素晴らしいインタビュー集の一部を、日本語に訳して紹介したいとブルースに相談してみた。20世紀アメリカの作曲家に絞って紹介したい、と思ったのは、クレスパンの次に読んだのがジョーン・タワーだったからかもしれない。彼女のインタビューは刺激に満ちたもので、作曲家、それも現代音楽の作曲家という存在にむくむくと好奇心が湧いてきた。

 

21世紀に生きるわたしたち、でもクラシック音楽のジャンルで言うと、いまだに聴いているものと言えば、80%は20世紀以前の音楽かもしれない。なぜなのだろう。もっと最近につくられた音楽を聴いてもいいのではないか。それには何かヒントがいる。まずどんな作曲家たちがいるのか、その人たちは、何を思って創作をし、音楽で何を実現しようとしてきたのか、聴衆や社会に対してどんな思いをもっているのか、そういったことを知ることから始めるのはどうだろう。

 

見当をつけて、手当たり次第、何か聴いてみるのも一つだけれど、よりよい聴き方をするためにも、楽曲や作曲者について、知識や論理があったほうが助けになりそうだ。なぜならわたしたちの耳は、20世紀より前につくられた音楽の書法にあまりに馴染みすぎているから。豆腐を食べたことのない人も、それが大豆からつくられた食品と知れば、味わい方も変わってくる。(書法という言葉は、文章だけでなく、作曲においても用いられる用語で、和声や楽式など曲を書く上での技術や方法を指す。英語でもwritingと言う)

 

20世紀はアメリカの時代と言われ、文化の中心もヨーロッパからアメリカに移っていった。ハリウッド映画、ジャズにポップス、Tシャツにジーンズ、ポップアート、ディズニー、ファーストフード、コンピューター、、、とアメリカ発のプロダクツが世界中に広がった。クラシック音楽界からも、たくさんの才能が生まれた。その中で作曲家は、一般に知られる存在にはなかなかならなかった。その理由の一つは、どこの国でも、あいかわらず20世紀以前の音楽を聴いていたからだ。

 

20世紀のアメリカの作曲家の中には、ブロードウェイなど劇場の音楽、あるいは映画音楽に曲を提供する人々もいたし、ジャズや世界各地の民族音楽とつながりをもつ人々もいた。アメリカの作曲家たちによって、クラシック音楽の枠組は少し広げられたのかもしれない。

 

このプロジェクトでは、ブルースがインタビューした、たくさんの作曲家の中から、10人を選んでみた。アメリカ人と言っても、ルーツも様々だし、指向する音楽もまったく違う。そこには共通性など何一つないかもしれない。注目されることの少ない女性作曲家や、草分け的な存在である20世紀初頭生まれの作曲家を入れたり、他のジャンルにまたがるような曲づくりをしている人は積極的に選んだ。

 

10人のインタビューを読んで(そしてサンプルの音源を聴いて)、耳慣れない音やハーモニーに触れ、音楽の楽しみの幅を広げてもらえたらとても嬉しいと思う。

 

2018.7.1.葉っぱの坑夫 だいこくかずえ