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ウィリアム・J・ロング著『森の学校』より 訳:だいこくかずえ
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なまけものの楽しみ(2)

ブランコ

 このときにはウンクワンクにはちょっとした考えがあったようで、何かを探していた。わたしがすぐ後ろをついていくと、小さな木に向かって立ち上がり、生真面目な顔で少しの間、ためつすがめつ見ていたが、満足は得られなかった。山の上から風が吹いてきて、ウンクワンクの頭上の木々を揺らした。枝がゆらゆら揺れているのをウンクワンクはじっと見上げていた。そして次の小さな木のところに急ぎ、手を木の幹にかけて、頭の上で動くものをどんよりした目で追っていた。

 ついに彼は探していたものを見つけた。隣り合って生えている若木2本で、風で互いをまさぐり合っていた。その内の一つにウンクワンクはぎこちない身のこなしで登りはじめた。自分の体の重みでその木が隣りの木の方に頭を垂れるまで、どんどん登っていった。そして登っていた木に、後ろ足をしっかり固定した上で、隣りの木のてっぺんを前足でつかんだ。そして2本の木が重なっているてっぺんのところで横になった。風が起こり、特製の揺りかごに乗ったウンクワンクを揺らしはじめた。

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 揺りかごはどんどん大きく揺れ、ウンクワンクはゴムひものように伸びて平たくなり、風が2本の木のてっぺんを分かつときも、トゲがしっかり枝に刺さりからだを支えていた。また木が身を寄せ合うと、からだを押し込んで縮め、踏まれた栗のイガのように、トゲを外に向かって突き出したまま平たい輪っかになっていた。暗くて姿が見えなくなるまで、そこでたっぷり1時間はゆらゆらしていた。伸びて、縮んで、伸びて、縮んで。風が演奏するアコーディオンのようだった。その間、ウンクワンクから出された声は、ダイナミックな伸びの瞬間がやってきたときか、風が変化して、2本の木が大きく揺れて最大級の刺激に襲われたときで、そのときは満足げな歓声があがった。ときどき、それに応える声があがった。丘のずっと下の方で、別のヤマアラシがどこかの木の上で、揺りかごで眠りにつこうとしていた。嵐が近づいており、森で一二を争う天気予報官のウンクワンクは、ここに住む仲間みんなに聞こえる声で、天気を知らせていた。

 

 というわけで、わたしの疑問に突然、答えがあらわれた。あの午後、ウンクワンクは楽しみのために出てきて、丘をゴロゴロころがって楽しみ、そのあとのクラクラも味わった。他の森の仲間たちもこれをやっている。急斜面の巣に住んでいるキツネの子どもたちが、次々に斜面を転がっていくのを見たことがある。ときに変化をつけ、一匹ができるだけ速く転がっているとき、そのそばをもう一匹が跳ねまわり、それに茶々を入れていた。

 これはキツネたちにとって誠に結構な楽しみ。小さな頭でこんなことをよく思いつくものだと感心する。しかしウンクワンクについて言えば、丘を転がっていって、

からだ中に枯葉を貼りつけて森の仲間を脅すなんてことを、誰が教えたのだろう。また木のてっぺんをブランコとして使い、風を動力としようなんて、いったいいつ思いついたのか。 

 

 おそらく、森の仲間たちは、多くのことを本能ではなく、学ぶことで手にしてきたのだ。わたしたちが目することなどなくとも、母親は子どもたちにあれこれ教えている。そうであるなら、ウンクワンクは、人間が思っている以上のものを、あのトロリと愚鈍に見える頭にもっているのだ。ヤマアラシの学校というものがあったなら、そこには面白い学びがたくさん用意されているのではないか。

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