トピック: 1-3 愛したい

Everybody needs somebody

その数日後、
マーロンとトモコさんの(本当はナンシーの)家を去る朝に、
マーロンから渡されてポケットにつっこんだ一枚の写真。

1996年のあの春の日、   
青い大きな太平洋をバックに横一列に並んだあたしたち4人、
スティーヴン、JJ、ロラン、そしてあたし、は、

 ・・・なんとか笑ってはみましたが・・・てん、てん、てん、

そんなぎこちなくこわばった表情だった。
それでもその日から始まった
ハワイ生活の第一歩を記録してくれたこと、
マーロンのあの痩けたひげほっぺに熱いキスをしてもいいくらい、
今はとても感謝している。

その日の朝、
あたしたちはトモコさんに礼をいってバンに乗り込むと、

 「All Righty!」

マーロンが陽気に、
だけどほんとはマーロンはそれほど陽気じゃない、
長いこと掃除された形跡のない運転席の
ステレオのボリュームを上げた。

 Everybody needs somebody

マーロンとそっくり双子みたいな、
オンボロバン。
くたびれてちょっと悲しげなその笑顔が、
どうにも憎めない。
 
 ブルルンブルルン、
 おれだっておまえだって、
 まだまだ捨てたもんじゃないんだぜ。
 生きてりゃ、そりゃあ、いろんなことがあるさ。
 死にたいくらいに絶望するときもあるさ。
 でもまあ、生きていられりゃあ、なんとでもなるってことよ。
 愛を、友を、見つけてごらん。
 Hey, 死ぬなよな。

誰に言うでもなし、
それがマーロンだったのかオンボロくんのだったのか、
あたしにはどちらでもおなじだった。

 Everybody needs somebody

Blues Brothersのその声に、
スティーヴンはまた眉間をきゅっと寄せて、
彼が呆れた時のサイン、まつげをぱちぱちさせた。

 ブルルンブルルン、
 ガンゴロガンガンガン、

数日前に迎えに来てくれたばかりの空港から
オンボロ・ブラザーズが埃を巻き上げて去っていく。

 「なんであんな歌を!」

ため息ひとつ、
スティーヴンは胃のあたりを軽く押さえた。
ロランはいつもなにかを考えているような表情で、
そしていつもなにも言わない。
JJは「まあそういうなよな、」
みんなの荷物をカートに積んだ。
そしてあたしは、1ヶ月前、冬の終わりに、
25なんていうまだまだ少女っぽい年から
ようやく一歩抜け出したばかりだった。

 Everybody needs somebody to love
 Sweetheart to miss
 Sugar to kiss
 
みんな一人じゃ寂しすぎて。
だから・・・、
 
そうしてなぜか、あたしは、
スティーヴンの横顔をちらりとのぞき込むと、
いつものように彼のくるりと長いまつげは、
いつもの灰色がかった盆地のとはちがう、
青いハワイの空を向いていた。

 I need you you
 I need you you
 I need you you in the morning
 I need you you when my souls on fire

空の上からみたオアフは小さくて、
そしてあっという間に、あたしたちはThe Big Island、
スティーヴンの最終地予定、ハワイ島に到着した。