トピック: 1-2 ライスサラダ

その晩はトモコさんが作ってくれたまぐろのような、
だけどどこかヘンテコな魚のしょうゆ漬け
(こっそり言うと、刺身と呼ぶには鮮度が悪そうだった)、
オリーブオイルとレモンの効いたツナサラダ、
トマトソースのパスタ、
イェローチーズ、だった。

JJもロランもあたしもその熱帯魚のような
てろんとした物体に躊躇しながら、おいしいね。
それ以外はおなかの心配もなくて、本当においしかったんだけど。

マーロンとトモコさんは実のところ、この家の留守番だった。
本当の家主はマーロンたちと同じように本土からやって来た、
イルカセラピーのヒーラーでナンシーというおばさんだった。

 繊細すぎる子や、心や体が病気の人たちとナンシーが
 イルカとすごすヒーリング・ワークショップに出かけている間、
 マーロンとトモコがこの家の管理をしているんだ、

島から島へと向かう空の上での長いたいくつな時間に、
プラスチックみたいな機内食をつつきながら、
そうロランにおしえてもらった。

 へー、島じゃそれで生活していけるの?

って、同じ島でも日本の本州という島で育ったあたしには
ちょっと、不思議だった。

そんなわけだから、
マーロンとトモコさんがそれ以外の時に、
本当はどこでどんな生活をしてるのか今でもまったくわからない。
だけど彼と彼女がとても幸せそうだったから、
もう他のことなんかどうでもよかった。

マーロンとスティーヴンのふたりはその夜、
テーブルに並んだどれにも手をつけなかった。
マーロンは帽子をかぶったまま、
椅子をギーコギーコ、前後に揺らしながら、
グラスに琥珀色のウィスキー。
 
 「エネルギー源さ」

壊れた蛇口みたいにそれをゴクゴク体に流し込んで、
黒い口ひげがニョキっと笑った。

 ちくしょう、
 おれの食えるものがない。

そう目の色が暗いスティーヴンに、
あたしはそっとトモコさんを誘ってキッチンへ行った。
それとなく事情を知っているトモコさんは
どーぞどーぞ、と言って、
あたしは冷蔵庫の扉を開けた。

 大きな丸いハムの塊、
 トムとジェリーのイェローチーズ、
 トラのホットケーキのバター、
 瓶詰めのマヨネーズ、
 キュウリのピクルス
 牛一頭まるごとみたいな牛乳パック、
 食べかけのクリームだらけのケーキ
 ペプシーなコーク、
 冷たくなってしょぼくれた昨日のフライドチキンと
 ピッツァ半分
 
 スティーヴンの食べられそうなもの、ない、か。

 「ねえトモコさん、お米、ある?」
 「あるよ。日本のほど美味しくないけどね」
 「お米であればオーケーよ。それなら食べると思うから」

けっきょくその晩スティーヴンは、
それからあたしが鍋で炊いたご飯にサラダを乗せて落ち着いた。
絞り立てのレモンがさっぱりしててよかったみたい。
長い旅で疲れているわりにはよく食べたから、
あたしはちょっとほっとする。

それからのオアフの夜は温かく、
波の音の他はなにも聴こえずとても静かで、
桜の散ってしまったあの吉田山は、
もうおかしなくらい前世のように遠かった。